ドラマ「不適切にもほどがある!」の「ムッチ先輩」と、映画「月」の「さとくん」。近年大いに話題を呼んだコメディーと社会派作品だが、この二つの出演作を見比べるだけでも役者として表現しうる幅の広さが分かる。
作品の世界にすっとなじんで、派手ではなくとも見た人の脳裏に消えない爪痕を残してしまう。磯村勇斗とは、そういう俳優ではなかろうか。
磯村勇斗が「これは僕の持論」と語る、ドラマ「ぼくほし」の役作り
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ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」(月曜午後10時、フジ系)では、臆病で不器用な主人公の弁護士・白鳥健治を演じている。舞台は、男子校と女子校が合併したばかりの私立高校。学校で起こるさまざまなトラブルに法的な観点から関わり、生徒や教員らとともに、正しさとは何かと考えていく役どころだ。
すでに映画の分野で数多くの演技賞を得ているだけに、民放の連続ドラマの初主演作と聞いて少し意外な気がした。とはいえ本人は「あくまでも今まで通りに、脇役でやっていた時と同じマインドで演じている」と気負いはない。
その健治というのは、風に色、音に匂いを感じるような特別な感覚を持つ人物で、「銀河鉄道の夜」の謎めいた一節を口にするなど宮沢賢治的な要素がちりばめられている。
実際、どこまで健治を賢治に寄せるのか。「そこは議論しました。意図して寄せはしないけど、賢治ファンの国語教師(堀田真由)には賢治に見える。そんなラインが理想だと考えています」
画の中の存在感の厚みまで繊細にチューニングできる技術が、今回も作品に独特の説得力を与えているのだろう。個人と社会の葛藤をリアルに問いながら、メルヘンの雰囲気も漂う不思議な世界観。それを成立させるために、まさにぴったりの配役であるに違いない。