第107回全国高校野球選手権神奈川大会は、選抜王者の横浜が3年ぶりの夏の甲子園出場を決めて幕を閉じた。決勝の相手はライバルの東海大相模。4季続けて神奈川の頂点をかけて争った両校の戦いぶりを振りかえる。
細部にこだわる「緻密(ちみつ)な野球」を掲げる横浜。5回戦までは、盤石の投手陣と堅い守備を生かし無失点で勝ちあがった。
それでも主将の阿部葉太(3年)は危機感を抱いていた。チャンスで点を取れていない。練習にも緊張感が足りない。「勝てるだろうという勝ちボケがあった」。選抜大会に優勝したチームの気の緩みを感じていた。
転機となったのは準々決勝の平塚学園戦だ。初回から攻められ、最大4点差をつけられる苦しい展開になった。九回2死から阿部の逆転の2点適時打でサヨナラ勝ち。阿部は「負けが見えた試合だった。勝って反省できた」と振り返る。
東海大相模との決勝は、三回に中村龍之介(3年)の3点本塁打で先制されたが、横浜の選手たちは動じなかった。村田浩明監督は「(試合は)長い旅だ。色んなことが起きる。必ずチャンスがくる」と選手たちに話したという。
直後の四回、一塁走者の阿部が相手の隙を突くディレードスチールで二塁を陥れ、奥村頼人(3年)の2点本塁打で反撃。連続適時打で一気に逆転した。
五回以降も、四死球や犠打で走者を進めるなど、隙の無い攻撃で追加点を重ねた。横浜が伝統としてきた「緻密な野球」が、決勝で再び発揮された。
一方の東海大相模は「ファンクショナル・ベースボール」を掲げる。
伝統的な攻撃的野球を土台に、選手が戦況に応じた守備や打撃を行う。原俊介監督は「選手全員の意識がつながっている状態」が理想だと言う。
準決勝の向上戦では、最大4点差を追いついた。九回には、浅いフライで、三塁走者の主将・柴田元気(3年)がタッチアップし、生還。右翼手の送球の動作が一瞬遅れたのを見逃さなかった。
決勝は、その「機能的な野球」が、横浜の緻密さに押さえ込まれた。
先制した三回以降、五回を除き毎回走者を出したが、横浜の好守もあって、得点できなかった。6回から登板したエース・福田拓翔(3年)も流れを変えられなかった。
試合後、横浜の阿部は東海大相模の中村から、「神奈川に来てくれてありがとう」と声をかけられたという。阿部は愛知出身で、中村は地元の神奈川出身だ。
互いに実力を認めあう横浜と東海大相模。そんな両校の対決を見ようと、横浜スタジアムには満員となる約3万3千人が訪れ、スタンドの上段に位置するウイング席まで埋まった。選抜王者と昨夏の代表校の戦いは、例年にも増して熱気を帯びていた。