朝日新聞のムハンマド・マンスール通信員=2023年11月12日、パレスチナ自治区ガザ地区ラファ、本人撮影

ゼネラルエディター兼東京本社編集局長 春日芳晃

 つかの間の停戦を崩壊させたイスラエル軍の大規模攻撃再開から6日後、パレスチナ自治区ガザで朝日新聞の通信員ムハンマド・マンスールさん(29)が殺害された。ガザでの死者は2023年10月の戦闘開始以来、5万人を超えた。その多くは、マンスールさんのような民間人だ。

 ガザは東京23区の約6割にあたる細長い土地に、200万人以上が暮らす。イスラエルによる境界封鎖で外への移動の自由がなく、「天井のない監獄」と呼ばれる。

 私は2012年10月、初めて取材でガザを訪れた。人口密度が高いため、建物が密集し、狭い路地が張り巡らされる街並みに驚いた。出会った青年に将来の夢を尋ねると、「一度でいいから外に出たい。世界を見てみたい」と語った。

 世界はいま、パレスチナ人を根絶やしにするかのようなイスラエル軍の激しい攻撃を、止められずにいる。

 マンスールさんは、逃げまどう市民の苦しみと恐怖、そして絶望を伝えた。同時に、市民が必死に生きようとする姿に焦点を当てた。

 自らも家を追われた昨年5月、その苦悩をつづる記事の中で、こう述べていた。「それでも、私たちの声を届けることにしか希望はないのではないか」。マンスールさんの報告には毎回大きな反響が寄せられた。思いが日本の読者の心に届いていたからだろう。

 イスラエルは外国メディアがガザに入って取材することを厳しく制限している。ガザの実態を伝えられるのは、マンスールさんのような人たちの存在があってこそだ。

 国際NPO「ジャーナリスト保護委員会」によると、ガザでは23年の攻撃開始以来、170人以上のジャーナリストが殺された。委員会は「口封じ」のためと批判している。

 朝日新聞のガザ報道を支えてくれたマンスールさんは、もういない。それでも、私たちはその遺志を引き継いで、ガザの実態を報じ続ける。

共有
Exit mobile version