【動画】連載「道後で生きる」テーマ動画
年に一度は孫や娘たちと来てくれる常連の80代のおばあちゃんは、去り際に必ず、こう言う。「いつもこれが最後じゃ思って、きよんよ」
松山市の道後温泉で老舗旅館「うめ乃や」を営む社長で女将(おかみ)の今山美子さん(55)は、こみ上げる切なさを抑えながら、そっとおばあちゃんの手を握る。
ここは大型ホテルや旅館が集まる道後温泉中心部の喧噪(けんそう)から少し離れている。
庭先には国史跡の湯築城跡の堀を隔てて道後公園が広がり、まるで全体が一つの庭のようだ。
堀沿いの梅や桜の花が散り、木々の葉が緑をたたえ、色づいては落ちる。季節が回ると、思い出したようにおばあちゃんはやってくる。
「また来てくれると本当にうれしくて。常連客が亡くなり家族もこなくなることが多くなった。寂しいです。けれど新しい出会いもありますから」
母は祖母の、自分は母の「後ろ姿」を見ながら
うめ乃やは120年ほど前、下宿として営みを始めた。俳人の河東碧梧桐(へきごとう)が、ここで暮らしたおいを訪ねてきたことがよくあった。女将だった祖母から伝え聞いた話だ。
「碧(へき)さんは、酔うと…