■A-stories 8がけ社会 消滅の先へ(5)
吉野川の源流域に位置する奈良県川上村は、全国有数の人口減少率の高さで知られる。2024年12月末の人口は1188人。45年の人口は8割減とも半減とも推計されてきた。働き手不足に直面する地域社会のあり方を研究するリクルートワークス研究所の坂本貴志研究員(39)と村を訪ねると、山村でも住民が心豊かに暮らすカギと、その先に待つ課題が見えてきた。
村役場を過ぎ、吉野川沿いの国道を和歌山方面に車で進む。国道にかかる橋を渡り、樹木が茂る道を上っていくと突然、視界が開けた。
- 記者コラム|都会で感じる漠然とした老後不安、山村で変わった超高齢社会の見え方
午前11時ごろ、36世帯49人が暮らす井光地区に着いた。公民館の前には、近隣のスーパーで仕入れた生鮮食料品や総菜など500品目を載せた移動スーパー車が横付けされていた。
エプロン姿の女性や普段着の男性ら7人が、荷台の棚から商品を取っては次々とかごに入れていた。代金の支払いを待つ間、客どうしのおしゃべりは尽きなかった。
ごぼうのつくだ煮を買った庄司一枝さん(90)は、近くの平屋に1人で住む。「山の暮らしが好き」で、畑で野菜を作りながら半自給自足生活を送っている、と快活な笑顔で語った。
総菜をよく買うが購入点数は多くない。それでも「集まるみんなと顔を合わせられるだけでうれしい」と表情をほころばせた。
移動スーパーはこの日、山あいの集落6カ所を2時間半かけて回った。2台の車両で村内計57カ所を週1回のペースで周回する。商品の予約注文も受けつけ、必要に応じて個別配達も行う。
山奥に点在する集落を回っては、集まった住民と近況を話し合う。看護師や歯科衛生士が同乗することもあり、住民の健康状態を確認する役割も担う。
近くに医療機関はなく役所も遠い。住民の7割が75歳以上で最高齢は100歳の女性。健康や生活への不安は尽きないように見えるが、みな自立した生活を送っているという。
連載「8がけ社会 消滅の先へ」
地方の「消滅」危機が唱えられて10年以上が経ちました。日本の人口はさらに縮小し、並行して現役世代が2割減る「8がけ社会」へと向かいます。すべての自治体が今のまま続くとは考えにくい。だからこそ「消滅の先」を描こうとする各地の取り組みから、地方の未来を考えます。
高齢住民にすれば、移動の手…