【連載】 サッカー王国の光と影 第4回
白壁のスタジアムは一部がガラス張りで、美術館のようなたたずまいだ。だが近づくと、熱気に圧倒される。超がつくほど熱狂的なファンが多いことで知られる、強豪コリンチャンスの本拠「ネオキミカアレーナ」だ。足を踏み入れると、「Time do Povo」(人民のチーム)と書かれた壁文字が目に飛び込んできた。
南米の1千万都市ブラジル・サンパウロ。東部にあるイタケラ地区は、人口約20万人のベッドタウンだ。郊外にある国際空港とサンパウロ中心部をつなぐ鉄道が通り、最寄り駅近くにはショッピングモールもある。
「40年ほど前までこの辺りは、貧しい家があふれていた。空き地も多くて、裸足でサッカーをする子どもたちの声が懐かしいよ」
住人のジョルジェ・シニバルジさん(67)は目を細める。
【連載】 サッカー王国の光と影
W杯で史上最多5度の優勝を誇る「サッカー王国」ブラジルですが、直近5大会は4強進出も1度しかありません。なぜ近年は優勝から遠ざかっているのか。サッカーを通じて、ブラジル社会の「現在地」を歩きました。
歴史的な高成長、開発進む土地
ブラジルで21年間続いた軍事政権が1985年に終わると、しばらく経済危機が続いた。90年には年率3千%にも及ぶハイパーインフレを経験。「スーパーの食品の値段が、午前中から午後になると跳ね上がっていた」との逸話もある。
だが、2000年代に入ると、世界的な資源ブームの波に乗り、ブラジル経済は歴史的な高成長を記録。貧困層出身の左派ルラ大統領は、社会福祉政策を進め、中流層が拡充した。
イタケラの開発が進んだのもこの頃だ。サンパウロ中心部に職を持つ中流層が次々と家を建てた。人工芝が整ったグラウンドも複数面できた。一方で、空き地は減り、路上サッカーをする子どもたちの姿は消えた。
「住環境としては確かに良く…