核なき世界への願いをこめた巨大な壁画が10月、広島空港に描かれる。広島とメキシコの友好関係と、ともに核兵器廃絶に向けた努力がノーベル平和賞につながったことを記念する企画だ。
描くのはメキシコ人壁画家、アドリー・デル・ロシオさんとカルロス・アルベルトGHさんの姉弟。世界25カ国以上で制作した実績がある。
姉弟は広島・長崎の被爆者らの資料を読み、長崎で被爆したメキシコ在住の山下泰昭さん(86)、広島で被爆した田中稔子さん(86)の証言を聞いた上で壁画の構想を練っている。9月下旬に来広して制作を始め、東側増築棟の壁2面にわたって計200平方メートル超の壁画を描く。
昨年にノーベル平和賞を受けた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)も企画に賛同し、壁画の構想で助言する。
7月18日にあった企画の発表会見で日本被団協代表委員の箕牧智之さん(83)は「空港から飛行機で帰る人が壁画を見て、改めて平和の大切さを感じてほしい」と語った。
核兵器禁止条約の締約国会議で議長国も務めたメキシコは、人が住む地域での非核化を定めた世界初の条約「トラテロルコ条約」(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約)の作成を主導し、1968年の発効につなげた。条約締結に尽力した外交官の故アルフォンソ・ガルシア・ロブレス氏は82年にノーベル平和賞を受け、同条約機構も今回の企画に賛同している。
企画を提案したのは、メキシコ人の父と日本人の母を持つグティエレス一郎さん(47)、実さん(39)の兄弟。メキシコで育ち、20代から東京に住む一郎さんは国際NGOピースボートの職員だった2008年、「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」に参加した。
メキシコ在住の実さんは21年の東京五輪で広島に滞在したメキシコ選手団の通訳を務めたほか、マツダメキシコ支社で社長通訳として勤務し、14年に結ばれた広島県とメキシコ・グアナファト州の友好提携に携わった。
一郎さんは「60年以上、非核外交を貫くメキシコと被爆地・広島の友好には運命を感じています」と話している。
企画は「核のない世界へ 広島メキシコ友好壁画」と銘打ち、クラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/hiroshima-mexico)で支援を募っている。