JR王子駅(東京都北区)から5分ほど歩くと、アパートや戸建て住宅が集まる地区に出る。昨年11月下旬、午後10時15分過ぎ。駅前の騒がしさとは無縁の、この閑静な住宅街の一角にある袋小路に、若い女性3人の姿があった。
3人は携帯電話をかざしたり、脇の住宅をのぞき込んだり。記者が英語で話しかけると、1週間ほど前に英国から来日した旅行客だった。大阪、東京と観光を楽しんでいたが、これから新たにチェックインする宿の場所がわからないという。
3人の目的地は小道の突き当たりにあった。3階建てマンションのような外観。塀には「No private house lodging(民泊はいらない)」と手書きの看板があった。それを見た3人のうち18歳の女性は「不快だ」と眉をひそめた。
「銀座で天丼を食べていた」
この宿泊施設の予約サイトを見ると、チェックインは午後10時までとある。女性に遅れた理由を尋ねると、「銀座で天丼を食べていた」と言った。
地元の住民によると、この「門限」はしばしば破られる。午前1時ごろにやってきた客がキャリーケースを引きずり、「ゴー」という音を周辺に響かせることもあった。日付が変わろうかという時間に施設前で談笑する宿泊客たちも。たばこの吸い殻が捨てられるようにもなった。
私道を遊び場に使っていた地元の子どもたちは姿を見せなくなり、「民泊絶対反対」などと赤字で書かれた看板が幾つも掲げられるようになった。このエリアに暮らして60年以上という播田実(はたみ)馨(かおる)さん(87)は「コミュニティーの秩序が崩れつつある」と話す。
そもそものボタンの掛け違いは、この施設ができた経緯にあった。
「マンション」のはずだったのに
もとは高齢女性が1人で住ん…