笑った顔の埴輪=九州国立博物館

 シンプルなのにどこか意味深で、なんとも愛らしいけれどちょっぴりミステリアス。そんな日本中の埴輪(はにわ)たちが九州国立博物館(福岡県太宰府市)に勢ぞろいした。3世紀から約350年間にわたって全国の古墳を飾った素朴な土の造形は、いま私たちに何を語りかけているのだろう。

 埴輪とは古墳の頂や周囲に立て並べられた葬送のアイテム。「日本書紀」には、むごい殉葬の代用として誕生したとのエピソードがあるけれど、考古学的には古代吉備(現在の岡山県や広島県東部)の特殊器台をルーツに、大和政権発祥の地、近畿地方から全国に拡大したとされる。

 土管みたいな単純な円筒形に始まり、器財や動物などモチーフはいろいろ。人物像にいたっては武人や巫女(みこ)、鷹匠(たかじょう)、力士と、実にバリエーション豊かだ。真の継体大王陵とされる今城塚古墳(大阪府高槻市)のように複数種類を整然と配置したものもある。

 その役割や機能をめぐって謎は多い。邪を寄せ付けないための呪的な結界であろうことはわかるけれど、では、まとまった群像の場面は? あの世かこの世か、葬礼の再現とか権力継承の儀礼とか、諸説あって……。とまあ、堅い話はここまでにして会場をのぞいてみよう。

 列島各地で花開いた埴輪文化だけに地域性もにじみ、白井克也・九博学芸部長は「関西のスタンダードにならいつつ、九州も関東も独自性を展開させていったようです」という。

 たとえば家形埴輪。先の今城塚の例は威風堂々として、まさに王者の風格。美園古墳(大阪府八尾市)の高床建物は周囲を盾が囲んで妙にものものしく、内部をのぞくとなぜかベッドが。被葬者を一定期間安置する殯(もがり)の儀式と関連づける見解もあり、とすればさながら「死者の家」といったところか。

不思議な姿をした西都原古墳群の子持家形埴輪=九州国立博物館

 九州を代表する宮崎・西都原古墳群の子持家形埴輪は中心の屋敷の四方に小さな家を配した不思議な構造で、形も違う。偉い人の実際の住まいを模したのか、それとも空想上の儀礼的な建物だろうか。

 西都原には船形もある。古代の人々はどうも、亡き被葬者の魂は船に乗ってあの世に運ばれたと考えたようだ。死者が滞りなく冥土に旅立てるように、との遺族の思いやりかもしれない。

 もちろん、誰もが知る有名どころも見逃せない。筆頭は、りりしく甲冑(かっちゅう)に身を固めた国宝「挂甲(けいこう)の武人」(東京国立博物館蔵)だろう。実は彼には群馬県の同じ窯で造られた4人の弟がいて、一人は米シアトル美術館からはせ参じてくれた。白井さんによれば詳細に観察すると製作順もわかるそうで、奈良・天理大学付属天理参考館蔵の重要文化財が末っ子らしい。奇跡の再会を、ともに祝ってあげよう。

特別展「はにわ」では、「挂甲の武人」の5人兄弟がそろい踏みしている=2025年1月20日午前11時26分、福岡県太宰府市の九州国立博物館、山本壮一郎撮影

 ちなみに武人像は、埴輪の石製バージョンとでもいうべき九州独特の「石人・石馬」にもある。会場に並んだ岩戸山古墳(福岡県八女市)出土と伝えられる武装石人は重量感にあふれ、埴輪と見比べてみるのもおもしろい。

 それにしても、人物埴輪たちの表情の豊かさは、どうだ。笑ったり泣いたり怒ったり。放心状態で視線を宙に泳がせているものもいる。とぼけた顔つきが笑いを誘う「踊る人々」(東京国立博物館蔵)は、疲れた現代人をほんわかさせる国民的アイドルだ。

 癒やし系なら動物たちも負けていない。戦闘や儀礼に欠かせない馬、狩りの対象だった鹿、狩猟の相棒である犬……。愉快な仲間が愛嬌(あいきょう)たっぷりに迎えてくれる。猿や魚といった変わり種の意味はいったい? 被葬者の領地は、こんなのもいるほど豊かだぞというアピールだろうか。

 それぞれにぎやかに個性を競い合う埴輪たち。その無言のつぶやきに耳を傾けてみれば、彼らに託した古代人の声が時を超えて聞こえてくる、かも。

 特別展「はにわ」(朝日新聞社など主催)は5月11日まで。

猿の埴輪は、なんとも味わいのある表情=九州国立博物館
鹿、馬、犬、イノシシ。かわいい動物たちも大集合=九州国立博物館

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