「ウクライナで戦争が始まった後、みなさんがいなければフランスは大停電に陥っていました」
仏北東部サンタボルドにあるエミールウシェ石炭火力発電所。欧州議会選を1カ月後に控えた5月7日、ここで異例の事態が起きた。
集まった労組の約200人をたたえていたのは、右翼政党「国民連合(RN)」のジョルダン・バルデラ党首(28)。「数年前には想像できなかった光景だ」。一般的に左派の支持母体となる労組が右翼RNのバルデラ氏を迎えたことに、地元紙の記者は驚きを隠さなかった。
脱悪魔化――。
RNはマリーヌ・ルペン前党首(55)のもと、10年ほど前からこう呼ばれる戦略を進めてきた。表向きは、声高に唱えてきた差別的な移民排斥や欧州連合(EU)からの脱退などの極端な主張を封印。「庶民の味方」として都市と地方の格差解消や治安の回復を訴えて、「普通の政党」の姿をアピールする。
労組に迎えられた右翼党首の約束
マクロン大統領は昨年9月、この発電所を火力からバイオマス燃料に転換すると発言したが、半年以上が過ぎた今も従業員たちには説明がない。雇用が維持されるのかもわからない。
バルデラ氏は「私たちが政府に圧力をかけます」と寄り添ってみせた。発電所の技術者パスカル・ロッソンさん(62)は欧州議会選で「RNに投票する」と断言した。
今回の議会選では、右翼政党が議席を伸ばすと予想されている。6月3日時点のテレビ局などの調査によると、フランスではRNが約34%の支持を集め、マクロン氏が率いる中道リベラルの与党連合は約16%にとどまっている。5年前の前回選挙は、得票率が20%台前半で拮抗(きっこう)していた。
欧州議会選は、3年後に控える仏大統領選の前哨戦とも位置づけられている。RNが大勝すれば、2022年の大統領選で決選投票まで進み、今も党の実権を握るルペン前党首が大統領になるシナリオが現実味を帯びる。
右翼への支持が広がる背景には何があるのか。
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