連載「石に魅せられて」
技術者は自らつくる半導体を「石」と呼ぶ。半導体の材料となるシリコンが珪石からつくられるためかもしれないが、実際のところはわからない。石に魅せられた日本の技術者たちは、かつて築き上げた半導体王国の絶頂と転落に何を見ていたのか。石にかけた、彼らの生き様を追う。(敬称略)
2009年4月28日の23時47分に撮影された写真がある。深夜の誰もいないオフィス。整然と並ぶ事務机や椅子、電源を落としたコンピューターが写る。
平田勝則(59)はこの写真を、「心の十字架」と呼んでいる。
約20年働いたパナソニックを退職する前の最後の日、日付が変わる直前に撮った。仕事を終え、部署の全員の机を一つ一つ丁寧に拭いた後だ。
半導体事業の管理職だった平田は、数千人のリストラの実行に関わった。その中には自ら命を絶った人もいたという。弔花は自費で送り、リストラにめどがついた後、会社を去った。
23歳で半導体の世界へ 数千億円を動かす
東京五輪のあった1964年…