現世で徳を積み、良い来世を迎えたい。そうした考えが根付く仏教国のミャンマーで、自ら「死」を考える人に出会うことは多くない。
だが、クーデター、内戦、そして大地震――。度重なる苦難が、フラーウェイさん(60)にこう言わせた。「この世界で生きるより、死んだ方がましなのかもしれない」と。
人生が暗転する始まりは2021年10月。民主派勢力「国民防衛隊(PDF)」が、北西部ザガイン管区の町を包囲した。決断は早く、翌日ありったけの現金と身分証明書だけを持ち、妻のエーミンさん(58)と2人で自宅を車で離れた。
その年の2月に起きた国軍のクーデターで政情は悪化の一途をたどり、9月にはPDFを傘下に置く「国民統一政府(NUG)」が国軍との戦いを宣言した。ザガインは現在まで激しい戦闘が続く。
【連載】重なる「災」 ミャンマー地震1カ月
2025年3月28日、ミャンマーはマグニチュード7.7の揺れに襲われました。4年前のクーデター、その後の内戦――。国が疲弊する中で起きた地震から1カ月が経ち、人々は何を思うのか。深い絶望と、希望を伝えます。
フラーウェイさんは乗り合いタクシーの運転手として働いていた。裕福ではなくても、子どものいない夫婦2人で暮らすには十分だった。それが内戦で家を追われ、仕事も家も失った。夫婦は「国内避難民(IDP)」になった。
同郷の僧侶がいる寺院を頼りに、ミャンマー第2の都市マンダレーをめざした。道路の封鎖や国軍の検問が何十カ所とあった。「夜は路肩に車を止め、2人で夜空を見上げながら路上に寝た」。紛争地を走り抜け、普段なら8時間の道のりに7日間かかった。
エーミンさんは「初めての逃避行。恐怖でパニックだった」と振り返る。
国軍の弾圧恐れる日々、突然の揺れ
マンダレーの僧院にたどり着…