「私たちの運命は、あまりに不条理で、あまりに不公平だ」
バングラデシュ南東部のコックスバザールで、コモロッディンさん(37)は嘆いた。昨年、家族とともに故郷を逃げ出してきた。
住んでいたミャンマーの村は同年4月ごろから戦地と化した。コモロッディンさんも砲弾の破片が首に当たった。一命は取り留めたが、傷痕は今も痛む。働けず、生活はさらに苦しくなった。
村への砲撃や空爆で隣人の家族4人が亡くなった。「もうここでは暮らせない」。妻(29)と子どもたち(12歳、3歳)を連れて家を出た。昨年8月5日の夜のことだ。
ロヒンギャを追う 新たな難民危機
内戦が続くミャンマーで、長く迫害されてきた少数派イスラム教徒ロヒンギャが故郷を追われる「新たな難民危機」が起きています。戦争、搾取、ヘイト――。窮状に直面し、安住の地を求める人たちの姿を追いました。
- 【そもそも解説】ロヒンギャ問題とは なぜ迫害受け、故郷を追われる
ロヒンギャ――。ミャンマーの少数派イスラム教徒の彼らは「不法移民」と見なされ、国籍を剝奪(はくだつ)されるなどの迫害や差別を長年受けてきた。世界中に離散し、総人口は200万~300万人とされるが、明確にはわからない。
国際社会の耳目が集まる「難民危機」が起きたのは2017年。ロヒンギャが多く暮らす西部ラカイン州でロヒンギャの武装組織が警察署などを襲撃したことで、国軍が掃討作戦を実行。国際NGO・国境なき医師団によると、少なくとも6700人のロヒンギャが死亡、70万人以上がバングラデシュに逃れた。その作戦開始から、8月25日で8年が経つ。
だが昨年以降、「新たな難民危機」「民族浄化」と指摘される事態に再び発展している。ラカイン州で、国軍と自治権拡大を求める仏教徒系の少数民族武装勢力・アラカン軍(AA)の戦闘が激化。社会的な立場の弱さから、ロヒンギャは双方の板挟みになった。特にAAはロヒンギャへの誘拐、拷問、殺人を犯しているとして人権団体から批判が向けられている。
自宅を出た後、コモロッディンさんは国境の川に向かった。道中、隣人が撃たれたが「家族の命を守るのに必死で助ける余裕はなかった」。川に着くと、逃げてきた人が500人以上いるのが見えた。
それでも攻撃は終わらない…