巨大な台風が接近していた。避難勧告を出すかどうか。和歌山県田辺市の危機管理局長だった中野典昭さんは、ひとり悩んでいた。
市内全域への避難勧告となれば、県内で最も広いこの自治体では初めてのことだ。
2018年8月23日。台風20号が近づき、気象台は午前から、1千平方キロ超の市全域に暴風警報を発表していた。
夕方には全域に大雨警報も発表され、災害情報の収集に追われた。
先立って避難勧告を出していた地区を流れる大塔川の水位が急激に上がり、午後8時45分、緊急に避難指示を出した。
午後9時37分。気象台から土砂災害警戒情報を発表するとの連絡を受け、中野さんの悩みは深まった。
全域に避難勧告を出さなければ、自宅にとどまった住民が土砂災害に遭うかもしれない。でも夜間に避難を促せば、むしろ強烈な風雨にさらされる危険がある。
「夜間の避難は危険」として反対する幹部もいるなか、中野さんは判断を迫られた。
午後9時58分。見解の分かれる局内の議論を引き取るかたちで、全域に避難勧告を発令。300人態勢の災害対策準備室を置いた。
準備室のトップとなる副市長はすでに退庁していて、翌朝に登庁するという。
中野さんは実質的な責任者として、定期的に被害や避難の報告を受け、刻一刻と変わる状況を取りまとめた。
ピークは過ぎて態勢縮小 ところが
風雨のピークは過ぎ、警報は…