台風一過で晴れ渡った9月上旬。静岡市清水区の野山で、年長児の高野景太くん(6)は木材が積み重なった茂みをじっと見つめていた。
かすかに何かが動く気配を感じる。「カナヘビだ!」。とっさにはいつくばって手を伸ばす。トカゲの仲間であるカナヘビは素早く逃げるが、小さな手が覆う方が早かった。「やった! しっぽが切れてないの、レアだ!」。狙った生き物を捕まえる。この瞬間がたまらなくうれしい。
通っている認可外保育施設「しずおか森のようちえん 野外保育ゆたか」では、年少から年長まで22人が活動している。園舎はなく、畑や近くの野山で一日を過ごす。景太くんは特に昆虫などの生き物が大好きで、一日中追いかけている。生態にも詳しく、友達からも一目置かれている。
「けいたー来てー、この卵なに?」
「けいたー、大きいカマキリ捕まえたよ」
何かを見つけ、捕まえるたび、あちらこちらから景太くんを呼ぶ声が響く。
同じ年長の女の子は「この虫なにって聞いたら、名前だけじゃなくて、毒があるよ、大丈夫だよとかいろいろ教えてくれるの。『虫博士のけいた』はすごいんだよ」と誇らしげに話してくれた。
森のようちえんへようこそ
自然とふれあい、自然の中で過ごす時間を大切にしながら幼少期の子どもたちを育む。そんな「森のようちえん」と呼ばれる子育て・教育スタイルが広がっています。子どもたちはどのように育っていくのか。実態を取材した5回連載の初回です。
山道を友達と話しながら歩いていても、常に虫を探している。「隙間や葉っぱの裏側もしっかり見ながら進みたいんだ。虫取りに休む時間はないからね」。ちょっとの動きも見逃さず、さっと手を動かすと虫をつまむように捕獲する。
エンマコオロギをつかむと、「産卵管があるからメスだな」。バッタを捕まえて観察し、「こっちはショウリョウバッタ、こっちはオンブバッタ。大きさや色や顔で区別できるんだよ。小さいからオスだな」。虫のことになると、話が止まらない。
生き物の中には危険なものもいる。ゆたかでは「ハチがいたらお地蔵さん」という約束がある。ハチを刺激して刺されないよう、出会ったらじっと動かないことを意味する。アブやムカデ、マムシなども危ないので手を出してはいけない。「虫博士」もそこはしっかり守る。
虫から学ぶ命の尊さ
ゆたかに通う前から、小学2…