水素(H)と酸素(O)の元素記号がデザインされた青色の車両が、「ファオーン」というモーター音をうならせ、ドイツ北部、ニーダーザクセン州の平野を貫く線路を快走する。
各駅停車の列車は集落ごとに停車し、また、なめらかに出発する。明るく広々とした車内では子どもの笑い声が響き、大きな車窓に目をやると、コウノトリが飛び、遠くに風車が回っていた。
屋根の上には、水素と空気中の酸素を化学反応で結びつけて、水と電気に変える燃料電池を積んでいる。石油を燃やしてエンジンで走る昔ながらの列車に代わって運行されている。
- 水素ってなんだ?最も多い元素に期待がかかるわけ
これはフランスの鉄道車両メーカー「アルストム」が開発し、ここドイツで2018年に世界で初めて実用化された、水素で走る「電車」だ。
発電や燃焼の際に二酸化炭素(CO2)を出さず、未来のエネルギーとして期待される水素。燃料電池を積んだ電車が走り、航空機の試験飛行に成功したドイツで実現しつつある「水素社会」の現場を訪ねた。
この電車を運行する同州の公社EVBでは、線路沿いにある「水素ステーション」のような場所で、給油ならぬ「給水素」の様子も見せてくれた。車体の連結面にある穴からガソリンのように圧縮した気体の水素を注入していく。
満タンになるまで15~30分ほど。500~1千キロ走るという。水素は工場で生じた副産物を利用しているが、今後、再生可能エネルギーによる電力でつくられた水素に切り替える予定だという。
記事の後半では、燃料電池を積んだ航空機や、ドイツの水素戦略、さらには「水素ブーム」に乗り、生産に追われる現地日系企業の様子を紹介します。
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EVBの整備担当者は「細か…