【連載】 サッカー王国の光と影 第1回

【動画】サッカー界のスーパースター、ビニシウスが育ったサンゴンサロ=仁尾帯刀氏撮影

 昨年12月、ドーハ。まばゆいライトが、ステージに近づく、紺色のスーツに身を包んだ細身の男を照らす。国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長からトロフィーを受け取ると、はにかんだような笑顔を浮かべ、こう語った。

 「貧困と犯罪が隣り合わせのサンゴンサロで、僕は裸足でサッカーをする少年だった。この舞台に立てた意味は、とてつもなく大きい」

 ビニシウス・ジュニオール(25)。FIFAの年間最優秀選手に輝いたブラジル代表のエースで、世界最高峰のプレーヤーだ。

 「貧困と犯罪が隣り合わせのサンゴンサロ」

 ビニシウスは、ブラジル南東部リオデジャネイロ近郊にある故郷を、そう称した。スターダムを駆け上がった彼の源流とは。サンゴンサロを訪ねた。

【連載】 サッカー王国の光と影

W杯で5度の優勝を誇る「サッカー王国」ブラジル。貧困層が半数を占めるこの国では、ビニシウスのように貧しい出自を持つ選手が無数にいます。貧困層にとってサッカーとは何なのか。ブラジル社会の「現在地」を歩きました。

 でこぼこの道を進む車内に、激しい振動が伝わる。道の両脇に、外壁がはがれた建物が続いている。

ブラジルの「負」が凝縮、ビニシウスの出身地

 所狭しと住宅が密集する「ファベーラ」(ブラジルのスラム街)には位置づけられていないものの、車窓からの風景は、それと同等の貧しさや治安の悪さが垣間見えた。案内役のレアンドロ・リマさん(41)は緊張した様子で言った。

 「車から降りないで。安全が保証できない」

ブラジル南東部サンゴンサロにある、ビニシウスの壁画=2025年2月21日午後、軽部理人撮影

 世界有数の観光都市リオデジ…

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