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 新NISA(少額投資非課税制度)がスタートして1年が過ぎた。今や「4人に1人」に当たる約2500万口座が開設されるまでに広がっている。個人に資産形成への努力を求める制度は、なぜ、どのように生まれたのか。

なぜ注目されている?

 新NISAに関心が集まっているのは、人生にはまとまった大きなお金が必要な時期があり、自分で投資してお金を増やすことも考えなければいけない時代になったからだといわれる。

 とくに子どもの教育費と住宅費、老後資金は「人生の3大資金」と呼ばれる。どれも金額が大きいため、前もって準備しておく必要がある。ただ、賃金は思うように上昇しないし、退職金もあてにできなくなった。

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 公的年金の将来に不安を抱き、老後に備える人も増えている。2019年、老後の生活費が「約2千万円不足」するとして資産形成を呼びかけた金融庁の審議会報告書が話題になった。当時の試算で「老後20~30年間で1300万~2千万円が不足する」という内容だった。経済環境などよって不足する額は一概に言えないが、「老後2千万円問題」は結果として資産形成のあり方に人々の目を向けさせた。

 足元の物価高の影響もある。物価高が続くと、銀行に預けているお金が実質的に減ってしまうからだ。日本銀行が昨年3月にマイナス金利政策を終え利上げ局面に入ったが、預金金利はまだまだ低い水準だ。

 普通預金の金利はメガバンクで年0.1%。100万円を1年預けても年1千円にしかならない。現在の2%台の物価上昇が続けば預金は目減りするばかりだ。預金より株式や投資信託の方が利回りが高い場合もある。

 ほかにも、昨年2月に日経平均株価が約34年ぶりにバブル崩壊後の最高値を更新。好調な株価が続いたことや、スマホなどで手軽に低額から投資できるサービスが普及したことも、新NISAへの関心を高める一因になっている。

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そもそも新NISAとは?

 新NISAとは、個人が少額から投資する際に税金がかからない優遇制度のことだ。株式などを売り買いする際、普通はもうけた利益に約20%の税金がかかる。それが非課税になる。

 正式名称は「Nippon Individual Savings Account」(日本版個人貯蓄口座)。14年に始まり、24年1月に仕組みが一新された。新NISAになって投資できる上限額が増え、非課税の期間が無期限になった。

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 また今まで「一般」と「つみたて」の二つに分かれて選択制だった仕組みが、「つみたて投資枠」「成長投資枠」に生まれ変わり、二つの併用が可能になった。

 つみたて投資枠は年間120万円までの投資で得られた利益が非課税となる。投資できるのは金融庁の一定基準を満たした投資信託・ETF(上場投資信託)で、長期にわたって積み立てや分散投資ができる商品に限られている。

 また、成長投資枠は、年間240万円までの投資で得られた利益を非課税にできる。つみたて投資枠の対象ではない投信やETF、上場株式やREIT(不動産投資信託)にも投資できる。

 新NISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠と合わせて、投資による利益が最大1800万円の投資で得られた利益が非課税となる。投資した商品を売却すると簿価分が翌年復活する。非課税期間が「最長20年」などと決まっていた旧NISAと違い、無期限となったことで使い勝手は向上した。

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 岸田文雄前首相が掲げた「資産所得倍増プラン」の目玉で、「貯蓄から投資へ」とお金の流れを進めるねらいがある。ただ、投資は元本保証がなく、稼げるときもあれば損することもあるので注意が必要だ。

海外では?

 海外でも個人の少額投資に対して税金を優遇する制度を持つ国がある。

 新NISAのモデルとなった英国の「ISA(Individual Savings Account)=個人貯蓄口座」は1999年に始まった。

 当時、英国では貯蓄率の低さが課題となっており、預金も投資も含めて資産づくりを広めようと、個人対象の非課税制度がつくられた。預金なら利息が、投資なら利益分が非課税となる。現在は年間2万ポンド(約394万円)の拠出が上限で、4種類あるISAを限度内で組み合わせられる。新NISAと異なり、累計の拠出額の上限はない。

 利用者の中には100万ポンド(約1億9700万円)以上を持つ「ISAミリオネア」と呼ばれる富裕層も現れている。

  • 【連載】NISAの「お手本」、英国のため息 ミリオネアもいるけれど
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 隣の韓国では、日本に遅れること2年後の2016年にISAを導入した。英国と同じく、投資にも預金にも使える。韓国では国内株の売却益は原則として非課税だが、ISAを使うと配当や海外投信などの売却益が非課税になるメリットがある。

 格差是正に配慮されているのも韓国ISAの特徴だ。所得により非課税額が異なり、所得が低いほど非課税額は大きくなる。日本や英国にはない仕組みだ。

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