オーストラリア東部の大都市シドニーはタスマン海に面し、「世界3大美港」ともたたえられる。街のシンボル、オペラハウスの前に広がるシドニー湾は青く輝き、ヨットやフェリーが行き交う。すぐそばに軍港があり、赤いカンガルーがトレードマークの軍艦が停泊しているが、物々しい雰囲気は感じられない。
ところが今年2月、穏やかな街に衝撃を与えた出来事が、タスマン海であった。
【連載】シップウォーズ アジア太平洋の覇権
中国がアジア太平洋での活動範囲を広げています。背景にあるのは、急速に高まった造船能力です。一方、覇を競う米国の造船業には翳りも。船をめぐるパワーバランスの揺らぎは何をもたらすか、現場から報告します。
「外国の軍艦が、東海岸から約300カイリ(約550キロ)の沖で実弾演習をすると無線発信している」
豪メディアなどによると2月21日午前9時58分、航空管制に異常を知らせる通報が入った。通報したのはその30分前にシドニーを飛び立ち、ニュージーランド南部クイーンズタウンに向けてタスマン海上空約3万7千フィート(約1万1千メートル)を飛行中だったバージン・オーストラリア航空の旅客機だった。
航空当局はこれを受けて2分後に注意情報を発出。バージン機の17分後にシドニーを離陸したカンタス航空機は急きょ飛行ルートを南寄りに変えた。計49便が、その海域上空を避けるよう針路変更を迫られたという。
豪州と共同で監視に当たったニュージーランド国防省は22日、実弾演習をしたのは中国海軍のミサイル駆逐艦「遵義」とフリゲート艦「衡陽」、補給艦の3隻からなる艦隊だったと明らかにした。「遵義」は排水量1万トンを超える大型艦で、「海上の統合運用を担う要塞(ようさい)」とも称される。
豪州にとっては、「裏庭」ともいえる海域で「抜き打ち」的に行われた演習だった。豪州側は、24~48時間前の事前通告が慣習だとしてアルバニージー首相らが中国側の連絡不足を非難した。
しかし、中国側は公海上の演習だったとして「国際法に沿う対応だ」として取り合わなかった。中国国防省の呉謙報道官(当時)は定例会見で、「次に豪州が中国の近くで演習する時には事前に知らせてくれますか」と逆質問で返した。
豪州は昨秋、台湾海峡に艦船を送り、自衛隊やニュージーランド軍の艦船とともに通過させていた。中国が「核心的利益中の核心」と位置づける台湾問題での牽制(けんせい)だ――。今回の演習は広くそう受け止められた。
しかし、今回の演習の重大さをより大きな観点から捉えるべきだという指摘が、専門家たちから相次いでいる。
豪海軍での勤務経験がある豪…