経済安全保障を旗印とした産業政策が世界で復権する中、日本も半導体産業などで政策介入が加速している。しかし、双日総合研究所の大矢伸チーフアナリストは「米欧のマネをすれば成長できる時代は終わった。政府の能力を過大評価してはいけない」と警鐘を鳴らす。
- 「自由貿易は死んだ」台頭する経済安保 荒波に巻き込まれた官僚たち
――産業政策が世界的に台頭しています。経済安保を理由に掲げることが目立ちます。
「自由貿易や市場メカニズムは非常に強い成長エンジンですが、完全ではなく、一定の条件のもとでは政府の介入は正当化されます。例えば、公害や二酸化炭素(CO2)排出による気候変動対策など、市場のメカニズムだけでは不十分な分野に対して、ゆがみを矯正するための介入は必要です。安全保障や先端技術の研究開発促進なども、政府介入が正当化され得る分野です」
「問題なのは経済安保という概念には、自国内の雇用の維持など保護主義的、重商主義的な思考が潜り込みやすく、拡大解釈されやすいことです。米国は中国との大国間競争の中で、経済安保の概念が保護主義的な思考と融合して拡大しており、心配な状況です」
――適切な介入とそうでない介入を、どのように見極めることができるでしょうか。
「世界貿易機関(WTO)は、輸出を加速させる目的での補助金は認めていませんが、研究開発への補助金は認めています。新しい技術がもたらす便益は、発明者にとどまらず社会全体に広く行き渡ります。研究開発を市場のみに任せればこうした社会的便益まで考慮されず、投資が過小になる傾向があるため、一定の政府介入があった方がイノベーションが進み、社会全体にとって望ましいと考えられます。しかし、こうした考えの中で、中国、米国に加えて、欧州や日本においても巨額の政策介入が常態化しつつあります」
一度は手を引いた「官民連携」 何を間違えた
――不適切な介入の例として…