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南條愛乃のキミとキラッキランラン

 放送中のアニメ「キミとアイドルプリキュア♪」(ABCテレビ・テレビ朝日系、日曜朝8時30分)のキャストが思いを語る連載「キミとキラッキランラン」。6月末は、アイドルプリキュアをずっと応援してきた妖精・プリルンを演じる、南條愛乃(なんじょうよしの)さんです。

 咲良(さくら)うたとの思い出と引き換えに、キュアズキューンに変身したプリルン。6月29日放送の第21話では、ついに思い出を取り戻すことに。感動の場面の裏話や、「応援」が持つ力について、たっぷりうかがいました。

「不純物」なく演じたい

 プリルンは、純粋で純真、まっすぐでキラキラ。「光のかたまり」みたいな存在だと思っています。

 私たちは大人になるにつれて、他人の目が気になってくると思うんです。自分が「こうしたい」より、「こう思われるかな」が先立って、つい空気を読んでしまう。

 でも、プリルンの行動の基準は「キラキラかそうでないか」だけ。

 アイドルプリキュアの映像をインターネットにアップリするのも、「キュアアイドルたちがキラキラだから、これを絶対見てほしいんだ」という気持ちからでした。

 たとえ、ふるさとキラキランドの女王様から、髪がモッサモサになるという罰が下ると分かっていても、「見てほしい」と思う。

 そんなピュアなプリルンが、私にはまぶしくて、演じれば演じるほど好きになって、自分も浄化されるような気持ちでいます。

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メロロン(左)と共に、キラキランドを訪れたプリルン©ABC-A・東映アニメーション

 その気持ちが台本を超えて演技に反映されたのが、第9話「ななの七不思議!」(4月6日放送)でした。

 キュアウインクに変身する蒼風(あおかぜ)ななちゃんが、不思議な行動をいっぱいとるエピソードです。

 そばで見ていた、うたちゃんやこころちゃんは「なんか変だね」と思っている。

 けれど、プリルンにとって、ななちゃんはキラキラにしか見えていないと思ったんです。「自分も変わってみたい」。そう考えて、新しい扉を開こうと行動している姿としか映っていないだろうと。

 だから、収録には「なながキラキラでうれしいプリ!」の気持ちで臨みました。

 プリルンを演じる時は、忖度(そんたく)とか邪心だけでなくて、「こう見せたいから、こう演じてやろう」という気持ちすらも不純物になってしまうと思っています。

 プリルンが今を楽しんでいるなら、「楽しい」だけを出そう。なるべくアウトプットに不純物をまぜないように演じているつもりです。本当に楽しくて、癒やされています。

ズキューン、ひっくり返るぞ

 キュアズキューンとキュアキッスのビジュアルが発表された時、みなさんSNSでどよめいていましたね。

 その前から、プリルンとメロロンがプリキュアに変身したらどうなるかを想像してイラストを投稿されている方がいて、ニヤニヤしながら見ていました。

 メロちゃんは、実際と近い感じのイメージもありましたね。でもプリちゃんの場合、元気な女の子というイメージのイラストが多くて。

 まさかこんなに大人っぽくなるなんて、誰一人想像できなかったんじゃないでしょうか。「みんなひっくりかえるぞ~」と思っていました(笑)。

 オーディションの時から、初代「ふたりはプリキュア」(2004~05年)以来の、白と黒の2人組プリキュアになると聞いていました。

 最初は、黒のキュアキッスに変身するメロロン役と、キュアウインク役を受けました。

 ズキューンとキッスを比べると、黒の方がお姉さんらしいビジュアル。自分の年齢を加味しても、キッスの方が向いているのでは、と事務所からのアドバイスでした。

 オーディションを進むと、白のズキューンに変身するプリルン役も加わって、結果はプリルンに。

 個人的な話をすると、私がソロで歌の活動をしている時のイメージカラーも白なんです。白と白で熱いなあと。

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キュアズキューン©ABC-A・東映アニメーション

 ズキューンになっても、思いのてっぺんにあるのは、「キュアアイドルを守りたい」という気持ち。プリルンとしてキュアアイドルたちを応援してきた時から、何もぶれていません。

 ただ、かっこいい一面と、かわいいお姉さんの一面をコロコロ変えたいなとは思っています。

 クールに「キュアアイドルは私が守る」と言う場面もあれば、なんかちょっと抜けているところもある。

 色んな魅力が詰まった女の子……というか、もとは妖精さんなので、つかめそうでつかめない感じが、にじみ出たらいいなと思います。

考えた「ifストーリー」

 ズキューンキッスのステージ曲「Awakening Harmony~プリキュア!ズキューンキッスディスティニー!~」のレコーディングは、ズキューンが登場する場面の収録より、だいぶ前にありました。

 その時は設定のイラストでしか、ズキューンの姿を知りませんでした。どんな人で、どんな声なのか……。

 レコーディングの日に来てくれたシリーズディレクターの今千秋さんに「これってどんなシチュエーションで歌うことになるんですか?」と聞きました。

 今さんの答えは「キュアアイドルたちがピンチになって、救いたい、守りたいと思う。でも守るためには、うたとの思い出を封印しないといけない。それを乗り越えて変身します」。

 えっ、思い出を封印?

 すんごいショックで、ガーンとなって。それから私の中で、プリルンが変身するまでの「ifストーリー」が展開されていました。

 私の想像では、思い出を封印しなければならないと知ってから、プリルンの葛藤で1話ぐらいはまたぐと思っていました。

 「思い出をなくしちゃう。でも守りたい。うたー!」。で、カチャンと、キーアイテムになる「伝説のハートキラリロック」のカギをかける、みたいな流れかなと。

 でも、第17話「プリルンの決意!キラキランドへレッツゴー!」(6月1日)でみせた、プリルンの決断の速さは、予想外でした。

 メロちゃんから「一番大事なものを封印しないといけないメロ」と言われた瞬間に、覚悟が決まっていたんですよね。

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自分の無力さに涙するプリルン。そして決意を固める©ABC-A・東映アニメーション

 メロちゃんの問いかけに、プリルンは「いいプリ!」と即答でした。「うたを守りたい」というプリルンの気持ちは、私が想像していたよりもっと大きかった。

 設定的には、プリルンは「幼稚園児ぐらいのイメージで演じてください」と言われていたんです。

 そんなちっちゃい子の中に、一番楽しくて大事な思い出と引き換えにしてもいいと言えるぐらいの強い気持ちがあった――。そのことに、びっくりしました。

 演技プランがどうこうというよりも、プリルンの気持ちに乗っていくしかないと考えました。むしろ「私の覚悟が足りているかな」と思うぐらい。プリルンがりりしく、強い子なんだと分かって、感動しました。

 「記憶をなくす」と聞いていたので、それまでのプリルンとうたとの時間を、一番プライスレスな時間にしたいなと思っていました。

 台本に書いていなくても、うたと一緒に何か言えるタイミングがあったら、アドリブをガンガン入れて。「どうですか?」とスタッフの皆さんに聞いていました。

 まあ半分ぐらいは、「そこは入れなくて大丈夫です」と言われて「はい……」と席に帰って(笑)。

 うたとの時間を、3人のアイドルプリキュアの中でも、わたしの中では一番濃密に考えていました。

松岡美里さんの熱い思い

 封印した記憶を取り戻したのは、第21話(6月29日放送)でした。あの回はなんて言葉にしたらいいのか……。

 闇に閉ざされたプリルン。思い出は戻っていないけれど、もっと深いところにしみこんでいるキュアアイドルの歌「笑顔のユニゾン♪」が口をついて出てくる。そして、うたとのユニゾンになっていく、という場面でした。

 収録は、テストをしてから本番という順序なんですね。大体いつも、歌はせりふと別に録音します。

 でも、あの場面は、うた役の松岡美里ちゃんがテストの段階から歌ってて。「すごく役に入ってるな」と驚きました。

 その1話、2話前の収録でも、美里ちゃんの思いがすごく強くて。プリルンは思い出をなくしているはずなのに、私がほだされてしまいそうでした。

 「気づかない」「知らない」と振る舞うのもつらいし、プリルンとしてうまく歌いたい、という邪念もある……。これは完全なる不純物ですよね。

 それまで、プリルンを演じる時は、私が思いつかないようなアドリブが勝手に出てきていました。ひとりでに動いてくれる感覚でした。

 でもこの大事な場面は、気を抜くと「私」が出てきちゃうんですよ。「こうした方がいいかなあ」みたいな気持ちが顔をのぞかせてしまう。

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うた(左)とプリルンのユニゾンが奇跡を起こす©ABC-A・東映アニメーション

 気持ちのいいテンポで歌うなら、もっとゆっくり歌いたい。でも指定のテンポはもっと早い。それに、尺も合わせなければいけない。スキル的な面でも難しい場面でした。

 でも、そこを純粋に、不純物なく演じたい。プリルンの気持ちと、南條の気持ちがシンクロするまでに、時間がかかりました。すごく集中した記憶があります。

 熱い気持ちで向かってきてくれる美里ちゃんと気持ちを合わせて、「思い出を取り戻したい」という一心で臨みました。

 どのテイクの後だったか、美里ちゃんが「やばいです~」と半泣きで声をかけてくれて。うたちゃんには気持ちが届いていたのかな、と思っています。皆さんには届いたでしょうか。

ライブ大嫌い人間だったけど

 プリルンは、ずっとキュアアイドルたちを応援してきました。私もライブで、たくさんの応援をいただきます。めちゃくちゃ力になります。

 というのも、私は元々ライブ大嫌い人間。そもそも、人前に出たくないから、声優という仕事を目指したんです。

 大好きなアニメに関わることはできるし、お客さんの前に出ない。でも同業の人の前で演じる必要はあるから、自分の引っ込み思案を直せるかな、と思ったんです。

 それが、私がデビューする頃には時代が変わっていて、人前に出る仕事になっていました。誤算でした(笑)。

 ライブの前には、毎回緊張します。なんでやるって言っちゃったんだろう、と後悔するんです。

 それが気が付いたら、ライブありきでアルバム制作をしている自分がいました。ライブのこの場面に、こういう曲があったら盛り上がるだろうな、と考えているんです。

 これは間違いなく、ファンの皆さんのせいなんですよ(笑)。よくライブで、「たぶらかされてる」と言います。

 みんながこうやってたぶらかしてくるから、「楽しかった」とか「またライブやるね」と言っちゃう。「もうみんなが悪い」と(笑)。

 そう言うと、みんなはみんなで、「僕たちだって南條さんにたぶらかされてます」と。たぶらかし合っている存在です。

 「ライブが嫌い」という考え方まで変えちゃうぐらい、「応援」って気持ちにも頭にも残るんです。

 活動する時、みんなの顔が浮かぶんですよね。それが「頑張ろう」と思える力になるし、ステージに立つと、みんながいて「楽しいね」という気持ちになっちゃって。本当に大きな力があるのが、応援だと思っています。

 みんなの応援や、存在がなくなったら、本当に思い残すところなく、私は歌の活動をやめられると思っているんです。

 「キミプリ」第1話の収録の時に、プロデューサーの村瀬亜季さんが、「キミとアイドルプリキュア♪」の「キミ」について語ってくださいました。

 アイドルは偶像と言われますが、「偶像崇拝」という言葉があるように、あがめてくれる存在がいないと、成り立たない。応援してくれる「キミ」がいないと、1人ではアイドルは存在しないんです。

 そんな話でした。まさに私が活動をする中で感じていたことを話してくださった。

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うた(左)とプリルン©ABC-A・東映アニメーション

 それまでは、アイドルもののアニメがたくさんある中で、「キミプリ」もその流行の中で生まれた作品の一つなのかな、という印象を持っていました。

 でも村瀬さんの話を聞いて、アイドルだけがキラキラしているんじゃなくて、「『キミ』も含めてアイドルだ」という世界を作ろうとしてくれているんだと分かりました。

 「流行りものかも」なんて、私はなんて浅はかだったんだろう。こんなにどっしり地に足つけて「アイドル」を表現しようとしているんだ。より一層気を引き締めて取り組もう。そう思いました。

 キミがいるから輝ける。その根本を共有する「キミプリ」チームに、最後までついていこうと思っています。

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