粉々になった住宅街には、数分おきにドーンという爆音がとどろいた。空には何本もの灰色の煙が立ち上っていた。
「『イスラム国』のやつらが自爆攻撃しているんだよ」。隣にいたイラク軍の兵士が解説した。
2017年6月下旬、私は過激派組織「イスラム国」(IS)とイラク軍や治安部隊が戦うイラク北部モスルの最前線を取材していた。
【動画】過激派組織「イスラム国」が「建国」を宣言してから10年がたったイラク北部モスル=其山史晃撮影
ISはその3年前に電撃的にモスルを制圧し、イラク・シリアの広範囲で恐怖支配をしいたが、イラク軍や米軍主導の有志連合の反攻に押され、モスル中心部に追い詰められていた。
イスラム法の独自の解釈に基づく規則で住民の生活を縛り、残虐な方法で処刑を繰り返す。自爆攻撃をいとわず、道連れとばかりに解放地域から避難する人を狙撃する。
この狂気じみた組織に集ったのは、一体どんな人たちだったのか。
【連載】過激思想と私 「イスラム国」は生きている
過激派組織「イスラム国」が「国家」を宣言して10年がたちました。「領土」は失われましたが、その思想は死んだのでしょうか。恐怖支配を経験した地で迫ります。
- 【連載初回】過激な「エリート教育」の果てに 子どもたちの心に起きた変化
今年6月末、私はISの元戦闘員と向き合った。ぼさぼさ頭にジャージーのズボン、裸足姿でモスル郊外の民家に現れたヤシン(34)という男は開口一番に言った。
「ISに入ったのはカネのためです」
夢見る男に与えられた過酷な任務
もともと、建設現場で働いて…