新型コロナウイルスの流行によって、ほとんどのトイレで使用禁止になったハンドドライヤー。実はこの対策は、明確な根拠なしに決まり、感染にはつながらないと実証された後も、禁止が続きました。
政治や社会、そして私たち一人ひとりの、科学リテラシーや科学との向き合い方が問われたコロナ禍。ハンドドライヤーの製造販売を手がける「東京エレクトロン」(神奈川県)の井上聖一社長(74)は、今も影響は続くと語り、「風評被害で、人生が大きく変わってしまった」と憤ります。
ハンドドライヤー製造 井上聖一社長
――どんな会社ですか?
1960年創業の、日本で初めてハンドドライヤーの製造販売をはじめた会社です。半導体製造装置メーカーとして知られる同名の会社とは全くの無関係です。
私は、ハンドドライヤーレンタルの代理店を営んでいた縁で92年に入社し、97年に4代目の社長になりました。コロナ禍前はハンドドライヤーの販売・レンタルが会社の利益のほとんどを占めていました。
売り上げ、半減のまま
――会社の状態は?
売り上げは、今もコロナ禍前と比べて半分ほどです。コロナ禍前、ハンドドライヤーは年間2500~3千台ほど売れていたのが、コロナ禍の最中はほぼゼロになりました。2023年5月に感染症法上の位置づけが「5類」になった後も回復しきらず、去年1年間は700~800台ほどでした。
今は売り上げの3分の2が、ハンドドライヤー以外です。コロナ禍で売り上げが伸びたアルコール噴霧器や、光で虫をおびき寄せて粘着シートで捕らえる機器などの販売で賄っていますが、噴霧器の売り上げも頭打ちになってきました。社長を継いでもらうはずだった役員は、先行きへの不安から会社を離れてしまいました。私はもうとっくに引退しているはずだったのですが、台無しです。
「正直ビジネスチャンスだと…」
――新型コロナが世間で注目されるようになった頃はどんな気持ちでしたか?
正直ビジネスチャンスだと思ったんです。というのも、09年に新型インフルエンザが流行した際には、職場などで共用タオルを使うと感染拡大につながるからと、ハンドドライヤーの売り上げが年間1千台以上も増えました。新型コロナでもそうなるだろうと、韓国の関連企業に増産を指示し、中国から300台を緊急輸入しました。
雲行きがおかしいなと思ったのは、少し経って、新型コロナは「エアロゾル感染」するので風が出るものは感染を広げるのではという話が、テレビなどで報じられるようになってからです。
――エアロゾルは、くしゃみや会話などで飛び散って空中を漂う小さな粒ですね。20年5月に政府の専門家会議は、各業界団体などに、業種ごとの感染防止ガイドラインをつくるよう提言しました。その中の「留意点の例」として、「ハンドドライヤーは止める」と記載されたことで、各団体のガイドラインのほとんどに使用禁止が盛り込まれました。
レンタルの解約の連絡が止まらなくなり、新規の注文もゼロに。倉庫には在庫の山がいくつもできました。
取引先の中国の人には「なんで日本は禁止なんですか」と驚かれました。調べてみると、WHO(世界保健機関)は手を洗った後はハンドドライヤーなどを使って乾かすべきだとしていましたし、禁止したのは日本だけでした。
――なぜ禁止になったのだと思いますか?
内情は分かりませんが、発言…