「おかえりなさい」
主人公の女性保護司が、銭湯から戻った男性に言葉をかける。男性は兄を殺した罪で服役し、仮釈放となった保護観察の対象者だ。保護司はそのまま自宅の居間に迎え入れて、手作りの牛丼をともに味わう。
漫画「前科者」のワンシーンだ。女性保護司が、罪を犯した人の立ち直りに真っ正面から向き合う姿が描かれている。
主人公には、自分なりのルールがある。対象者と日々の生活や就労などについての面接。初めての面接は、自宅で牛丼を振る舞うことにしている。
原作者の香川まさひとさん(64)は、作品づくりのため何人かの保護司を取材した。対象者を自宅に招き入れると聞き、最初は驚いたという。
不安はないのか。世間の目が気にならないか。
だが、ある保護司から言われた。「『そこまで自分を受け入れてくれるんだ』って、思ってもらえるなら意味があるんじゃないの」。その言葉で、思い直したという。
牛丼で迎えるエピソードも、実際の保護司がモデルだ。
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面接には、公的施設が使われることもある。ただ、「もし自分が対象者になったとしたら」と香川さん。やはり、面接場所は保護司の自宅が良いという。
家の中の雰囲気や生活ぶりがわかれば相手の素顔をよく知ることができて、保護司と対象者のより良い関係につながっていくのではないか、と話す。
バス停を面接場所代わりに
総務省が2019年に実施したアンケートによると、最も多い面接場所を自宅としている保護司が7割を超えた。
ただ、大津市で今年5月、保護司が殺害された。自宅での面接中に事件は起きたとされる。
法務省は7月、自宅以外で面接ができる場所を確保するため、全国の自治体に対し、公民館などの公的施設を面接場所として利用できるよう協力を求める通知を出した。
事件後に取材を進めると、香川さんが懸念したように、自身が女性であることでの不安や自宅の場所を知られることへの抵抗感を口にする保護司も少なくなかった。
家族から自宅での面接を反対され、最寄り駅のバス停を面接場所代わりにしていたと打ち明ける保護司もいた。
20年続けてきた保護司をやめる理由
保護司歴約20年という70…