【ニュートンから】新紙幣のテクノロジー(2)
紙幣用紙にほどこされた偽造防止技術の中で,最も重要なものが「すかし模様」だ。「すかし」とは光を当ててすかしてみると図柄などがあらわれるしかけだ。すかし模様の入った紙を製造することは非常にむずかしいため,偽造を防ぐことができる。日本では江戸時代に発行された藩札ですでにすかしが使われていた。明治時代以後の多くの紙幣には,紙幣の模様の中に空白の窓をもうけ,その中に肖像のすかしを入れるデザインが取り入れられてきた。すかしは日本が伝統的に得意とする偽造防止技術なのだ。
新紙幣ではすかしの技術をさらに進化させた。表面の窓に光を当ててすかすと,肖像が浮かび上がる。そして,肖像の周囲からも微細な模様が浮かび上がるようになった。この微細な模様が新紙幣ではじめて取り入れられた「高精細なすかし模様」だ。
すかし模様が見える理由は,紙のつくり方のくふうによって紙の厚みに微妙なちがいをつけたところにある。紙の周囲よりも薄くなった部分は,光が多く散乱する。この部分を光にすかすと白く見える。紙を部分的に薄くすることで,白くすかす技術を「白すかし」とよぶ。
一方で,紙が厚くなった部分は光の散乱が少なくなる。この部分を光にすかすと黒く見えるため,この技術を「黒すかし」とよぶ。日本の紙幣は白すかしと黒すかしを組み合わせた「白黒すかし」という技術を使って肖像をえがいている。白黒すかしを使うことで,微妙な濃淡の差を表現できる。白黒すかしは1887年以降,現在まで国立印刷局外での製造が禁止された文字通り“門外不出”の技術だ。
すかしをつくりだすための紙…