国立精神・神経医療研究センターの精神科医・松本俊彦氏=2024年2月8日、東京都小平市、川野由起撮影

 若年層で広がる市販薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)。子ども・若者のアディクション(依存的な行為)や自傷行為に詳しい国立精神・神経医療研究センターの精神科医・松本俊彦氏は、ODは「支援につながるための入場券」で、回復に向けた第一歩だといいます。どのような支援が必要なのか聞きました。

 ――市販薬のODは、他の薬物依存とどう違うのでしょうか。

 市販薬のODをするのは10~20代の女性が多く、学業を続けていて犯罪歴がないといった特徴があります。男性中心で非行歴がある人が多い、覚醒剤などの違法薬物の使用者とは異なります。ただ、共通する根本の問題は、トラウマ体験です。小さいころに虐待を受け、成人した後もパートナーから暴力を受けるなど「人生の大半の時期を被害者として生きてきた」人が多いです。

 若年層が市販薬を使うのは、合法で処方箋(せん)や保険証がなくても買えることが大きいでしょう。つらいと感じたときに周りの大人にSOSを出せる状況になかったり、家族の保護的な機能が弱かったりすると、市販薬をODしてしまうということです。

 ――依存症は快楽を求めて依存を強める「正の強化」ではなく、苦痛をなくすために依存していく「負の強化」だと指摘されてきました。

心の痛みの「自己治療」

 心の痛みを自分で和らげる「自己治療」という点では、市販薬を使う人が最も顕著だと思います。ひとつの傾向は、トラウマやストレスによる適応障害や複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)などに対処しようとするODです。

 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)といった発達障害が関係していることもあります。「人より時間がかかる」「空気を読みづらい」といったことで叱責(しっせき)されたりいじめられたりするなかで、苦痛を緩和するためにODしている人も多いです。

 ――市販薬のODは広がっているのでしょうか。

 とても広がっています。SNSも大きな要因でしょうが、それ以上に、ドラッグストアが激増したことも大きいです。医療用医薬品(処方薬)のODが増えたのも、精神科医療のハードルが下がり、多くの国民が処方薬にアクセスできるようになった側面があります。それがさらに大きな規模で起きているのが、市販薬のODの問題だと考えています。

  • OD、リスカ…「トー横」の仲間と生きた日々 救われて気づいたこと

 特に「参ったな」と感じたのは、コロナ禍に入った2020年です。感染対策の「ステイホーム」で、虐待などの問題がある家庭の子どもたちが、家にいて息抜きができず、ODやリストカット、摂食障害が止まらなくなって、外来に大勢がやってきました。

「アディクション」は「リカバリー」の第一歩

 ――ODによる死亡事例も相…

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