太平洋戦争最大の地上戦となった1945年の沖縄戦では、「鉄の暴風」といわれるほどの砲弾が撃ち込まれました。戦争体験者たちが抱えてきたトラウマ(心の傷)について、いまも月に1回、沖縄で診察を続ける精神科医の蟻塚(ありつか)亮二さん(77)に聞きました。
――沖縄戦のトラウマに気づいたきっかけは何だったのでしょうか。
「奇妙な不眠」に出合ったことです。
2010年12月、沖縄本島南部の病院に勤めていた時のこと。どうにもこうにも夜に眠れないという高齢の患者が5~6人、内科から紹介されてきました。
「夜中に何度も目が覚める」という訴えからは、通常はうつ病の中途覚醒が疑われます。しかし、聞いてみると、仕事のつらさもないし、朝起きられないということもない。うつ病ではない、と思いました。
――どうやって沖縄戦とつながったのですか。
このころ、私はちょうどナチスによるホロコースト収容所からの生還者の睡眠障害に関する論文を読んでいました。そこに、同様な症状が書かれ、トラウマによる過覚醒不眠という記述があったのです。
そこで患者さんに「沖縄戦のときにはどこにいましたか」と尋ねました。すると、「死体を踏んで逃げた」「妹が目の前で死んだ」など、次々と苛烈(かれつ)な体験が出てきました。
彼らには、奇妙な不眠(過覚醒不眠)のほか、戦時の記憶がよみがえるフラッシュバックや不安発作、パニック発作、車を運転していて突然どこにいるかわからなくなるような解離性障害などの症状もあり、沖縄戦のトラウマの後遺症だと考えました。当初は60年以上も経ってから症状が出てくるとは、私自身も信じられませんでした。
島ぐるみのトラウマ
――過覚醒不眠とトラウマは、どういう関係がありますか。
過覚醒不眠というのは、眠りに入ろうとするときに、「起きろ、起きろ」と睡眠を妨害する過覚醒刺激によって、睡眠が中断したり、目覚めてしまったりするタイプの睡眠障害です。
患者さんが抱えていたのは沖縄戦での体験に起因するトラウマでした。その刺激が昼間に何かの拍子に意識の中に入ってくると、イライラやフラッシュバックになり、夜だと不眠やパニック発作を引き起こします。
病院の心療内科に通っている高齢者に次々と、戦争当時の聞き取りをしました。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の視点で洗い直すと、戦争関連の後遺症のある患者は10カ月で100人を超えました。
年月を経てから発症するので、私は「沖縄戦による晩発性PTSD」と名付け、学会などでも発表しました。
――反応はどうでしたか。
あまりよくなかったですね。県内での会合では「反基地運動を始めるのか」と言われたこともあります。戸惑った人が多かったのかもしれません。
沖縄育ちの精神科医は、「自…