過労死した公立小中学校の教職員は、データのある2015~23年度の9年間で38人だったことが分かった。公務災害の認定などをする地方公務員災害補償基金(東京都)への取材で明らかになった。
文部科学省が月ごとの時間外勤務に「45時間」という上限を設けた18年度以降に限っても、26人が確認された。
過労死は、心疾患や脳疾患による死亡や、心の病での自殺のうち、仕事が原因だった場合に認定される。地方公務員災害補償基金の集計では、過労死と認定された地方公務員のうち公立小中学校の教職員が占める割合は、22年度は31%、23年度は23%だった。
- 【関連記事】部活、遠征…53日間で休み1日 教諭の過労死「美談にしたくない」
- 【関連記事】残業169時間「疲れました」 新任教諭の自死、孤独と葛藤の末に
横浜市立中学校教員だった夫を過労によるくも膜下出血で亡くした「神奈川過労死等を考える家族の会」の工藤祥子代表(58)は「教員の過労死には共通点が多く、個々の事例について詳しく調査すれば再発防止につながる」といい、分析に基づく国の再発防止策の必要性を訴える。
背景に「定額働かせ放題の制度」指摘も
教員の過労死の一因は長時間労働だ。適切な勤怠管理がなされない理由の一つに、教員給与特措法(給特法)の存在を挙げる意見もある。
残業代が払われず、代わりに給与の一定割合が上乗せ支給されている同法の仕組みにより、現場の管理職が労働時間を抑える意識を持ちにくくなっているという指摘だ。「定額働かせ放題になっている」とも言われる。
給特法は今年の通常国会で改正された。待遇改善のため、上乗せ支給分を今の「給与の4%」から「10%」に段階的に引き上げる。また、各地の教育委員会に、時間外勤務の削減目標や取り組みなどの計画策定・公表を義務づける項目も盛り込んだ。
国会での審議途中に議員側から修正案が提出され、可決・成立した。時間外勤務を月平均約30時間まで減らす目標や、公立中学校の「35人学級」実現に向けた措置の実施を付則に明記するなどした。
一方、国会審議では、「長時間労働をなくせない」などと給特法に基づく仕組みを問題視する意見も出た。
給特法改正案が成立も廃止論が根強く
「給特法のこれからを考える有志の会」のメンバーで岐阜県立高校教諭の西村祐二さんは「給特法を廃止し、残業代を出す制度にしなければ、労働時間を抑え、人件費の膨らみを防ごうという意欲が管理職に生まれない」と指摘する。
一方、文科省は、中央教育審議会(文科相の諮問機関)の答申を引用するなどして「この仕組みは教師の裁量を尊重し、合理性があるとされており、廃止は考えていない」と説明している。