A-stories「タブーなき買収」#2
かつて「敵対的買収」と呼ばれ、敬遠された企業買収が増えています。買い取り価格の高騰やネガティブキャンペーン、横やり争奪戦、全株売り抜け。食うか食われるか、タブーなき買収の時代の幕が開こうとしています。
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堅実な企業が豹変(ひょうへん)した買収劇は、窮鼠(きゅうそ)猫を噛(か)む展開をみせた。
「ブラザー工業のヘッドは不良率がかなり多いことがわかりました」
4月26日、業務用プリンターを手がけるローランドディージー(DG、浜松市)の役員らが都内で会見した。批判の矛先は、プリンター大手のブラザー工業(名古屋市)に向けられた。
「ブラザーの傘下に入ると重大なディスシナジー(マイナスの相乗効果)が生じてしまう」
発端はブラザーが3月、ローランドDGに対し、株式公開買い付け(TOB)を実施する、と予告したことにさかのぼる。
共同開発プロジェクトを進める間柄
相手の同意を得ずにTOBを仕掛ける手法は、かつては敵対的買収と呼ばれた。1908(明治41)年創業で、名古屋の企業らしく「堅実経営」で知られるブラザーは一変したのか。
もともと両社は取引があり、ローランドDGはブラザーから自社製品に使うインクをふきつけるヘッドの1割を調達している。2019年には共同開発プロジェクトも始めた。
ブラザーは「産業用」「プリンティング」両領域の強化をめざし、将来の戦略にローランドDGの技術が欠かせないと判断。昨年9月に水面下でTOBによる傘下入りを打診していた。
ブラザー副社長の石黒雅は「両社の企業価値や株主価値の最大化につながると考えた」と振り返る。保守的なブラザーを後押ししたのは「敵対的買収」を「同意なき買収」と改めた経済産業省の指針の存在があった。
ブラザーが一方的にTOBを宣言したのは、ローランドDGが設置した社外取締役で構成される特別委員会で、経営陣から独立した判断をもらえると踏んだからだ。
経産省の指針でも「取引の公正性を確保するため、独立した特別委をつくり、判断を最大限尊重することが望ましい」と盛り込まれている。
だが今年2月、ブラザーにとって「寝耳に水」の出来事が起きる。
ローランドDGが米ファンドと組み、非上場化へ経営陣が参加する自社買収(MBO)を表明したのだ。「企業価値を上げるため」としたが、「買収防衛」との見方もあった。
なりふり構わぬ徹底抗戦、経営トップはTV出演
ファンドのMBOによるTO…