台湾北西部の新竹市に「台湾のシリコンバレー」と称される新竹サイエンスパークがある。車で走ると、通り沿いに世界的な半導体の企業や工場が次々に視界に入る。
新竹県に本部がある総合研究機関「工業技術研究院」(ITRI)とともに、企業や大学が立地していった。半導体受託生産の世界最大手「台湾積体電路製造」(TSMC)もその一つで、創業者はITRI第3代院長だ。
ITRIには、幹部らが「源流」と位置づける機関がある。日本統治時代の天然瓦斯(ガス)研究所(天研)である。
【動画】台湾総督府が設立した旧天然瓦斯研究所の本館=大室一也撮影
石油の約8割を米国からの輸入に頼っていた当時の日本にとって、エネルギーの確保は急務だった。新竹近郊では大量の天然ガスが見つかったが、当時は燃料化する技術が確立していなかった。そこで1936年、台湾総督府が天研を設立した。
所長に就いたのは、山口県周南市(旧徳山市)生まれの小川亨(おがわとおる)(1893~1969)。京都帝大出の理学博士で、石炭を液化して合成石油をつくる研究をし、朝日文化賞も受賞した優れた研究者だった。天研では、天然ガスの燃料化や、ゴムの補強などにいまも使われるカーボンブラックを天然ガスから製造する研究などを指揮した。
エネルギー問題は、日本の命運を左右することになる。
「台湾をゆく 明治維新から敗戦まで」 (3)小川亨
長州藩・山口県出身者が関わった日本の台湾統治を振り返る連載。3回目は台湾産天然ガスの軍事転用を指揮した研究者を探ります。
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