2025年6月24日、竣工(しゅんこう)した江原道の元山葛麻海岸観光地区を見て回る金正恩氏(中央)と娘。朝鮮中央通信が報じた=朝鮮通信

【連載】北朝鮮の表と裏

北朝鮮は最近、ロシアとの協力を誇示し、海沿いのリゾート施設で楽しむ市民の姿を公開しました。一方で、各国の調査や脱北者の証言を積み重ねると、北朝鮮が長く自称する「地上の楽園」の表と裏が浮かび上がります。最新情勢を5回の連載で伝えます。

 北朝鮮は2023年10月、一般労働者の給与を10倍以上に引き上げた。脱北者や韓国の専門家らによれば、北朝鮮では最近、コメや肉類など食料品の値段が引き上げ措置前の2倍程度になり、現地通貨の対ドルレートも大幅に下落している。韓国の北朝鮮専門媒体「デイリーNK・AND(Archive North Korea Data)センター」の李尚龍(イサンヨン)ディレクターは「金正恩(キムジョンウン)体制が維持される限り、根本的に経済は良くならない」と語る。

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 李氏によれば、北朝鮮の給与引き上げ対象は、政府や党の職員、教師、国営企業所の従業員など。02年7月1日の「経済管理改善措置」以来、21年ぶりの大規模な賃金改革だった。給料が10倍にも増えたことで、市民生活はどう変わったのか。

 デイリーNKの7月10日付報道によれば、北朝鮮のコメ価格は、09年秋の貨幣改革以降初めて、1キロあたり1万3千ウォンを突破した。昨年までは同5千ウォン前後だった。為替レートも1ドル(147円)あたり3万ウォン台にまで下落した。昨年は1ドルが8千ウォン程度だった。

2025年7月1日、開業した北朝鮮・江原道の元山葛麻海岸観光地区で海水浴を楽しむ人々。朝鮮中央通信が伝えた=朝鮮通信

 李氏によれば、賃金の上昇幅が企業の支払い能力を超えているため、一部の企業所が賃金を期限内に支払えないか、規定通りの額を払えていない。市場価格に比べて元々の賃金水準が低すぎることや最近の物価上昇もあり、実質購買力は低下している。

 また、目標の生産量を達成できない企業所は約束された賃金を支払わないため、市民の間の経済格差が広がる弊害も出ている。

経済は混乱 なぜ給与を引き上げたのか

 経済的な混乱が加速している…

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