Smiley face

 年季の入った手帳。そのページは、少し汚れている。

 「わが社は最新の理論と最高の技術を駆使して、世界最秀の商品を廉価に作ろう。そうして平和で豊かで健康な社会を作り……」

 創業以来、掲げられてきた「社是」。横浜市のJR鴨居駅から徒歩15分。町工場と住宅街が並ぶ一角に、化学機器メーカー「大川原化工機」はある。

写真・図版
大川原正明社長の手帳に貼られた同社の「社是」=2025年4月22日午後3時52分、横浜市、比嘉展玖撮影

 茶葉の乾燥機をつくっていた会社の後継企業として、1980年に東京・蒲田で創業した。同年、噴霧した液体を熱風で粉体に加工する「噴霧乾燥機」(スプレードライヤ)を扱っていた別の会社を吸収し、新たな一歩を踏み出した。

 噴霧乾燥機は元々、粉ミルクの製造過程で使われていた。80年ごろにはインスタント食品が広がり、ふりかけや漢方薬などの食品・医薬品の加工分野に幅広く浸透していた。

 当時は欧州の機器メーカーが国内7割のシェアを占めていた。そこで同社は国内メーカー向けの機器の製造・開発に需要を見いだした。粉体の粒の大きさや分布を自在に操る同社の技術は、セラミックや電子部品材料の分野で重宝され、スマートフォンのスピーカーマイクの材料の製造などを担ってきたという。

 次第に海外市場にも目を向け、欧州や中国など世界20の国と地域に販路を広げた。2010年代になると、環境負担の低い電気自動車向けの電池部品の開発に力を注いでいた。

 しかし、それは突然訪れた。

 「令状、出ていますんで」…

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