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米ニューヨークで行われたメッツとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第3戦で3点本塁打を放つドジャースの大谷翔平(中央)=10月16日、AP
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 大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手(30)は今季、前人未到の年間54本塁打59盗塁を達成するなどして、ナショナル・リーグMVP(最優秀選手)の受賞が確実視されています。人気球団に移籍して1年目、米球界や社会にどのような影響を与えたのでしょうか。日米関係に詳しく、米ライス大で米国の歴史を教えている清水さゆり教授(歴史学部)に聞きました。

 ――大谷選手の活躍をどう見ましたか

 元通訳の水原一平氏の賭博スキャンダルで一時はイメージが落ち、アンチファンを増やしました。現在は一連の件が汚点になった感じは見受けられません。

 それだけ大谷選手は好感度が高い。私は南部テキサス州ヒューストン在住で、周りはヒューストンを本拠にするアストロズのファンが多い。ですが、彼らやそこまで野球が好きではない人も、大谷選手の動向は気にしていました。

 ――エンゼルスからドジャースに移籍して注目度に変化はありましたか

 格段に上がったと思います。米国では「おらが街」のチームを応援するのが基本ですが、ロサンゼルスのドジャースは「全国区」。色々な人が一目置いている感じがあります。お金に関する話題が好きなファンも多いので、10年総額7億ドル(約1078億円)の大型契約もすごく話題になりました。

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 ――社会への影響は

 最近は日本の話題になると、大谷選手の名前がまず挙がる印象を受けます。日本の存在感が米国でここ20年ほど薄れてきているように感じる中で、大きなインパクトを与えています。

 ――過去に米国で活躍した日本出身アスリートとの違いは

 イチロー選手がシアトルのマリナーズで快挙を達成していた2000年代。私が当時住んでいたミシガン州では、地元デトロイトのタイガースの話ばかりで、あまりイチローさんは話題になっていませんでした。

 ニューヨークのヤンキースは全米にファンがいるので、たまに松井秀喜選手を好きな人に会いましたけど、それでもタイガースへの関心の方が高かった。

 大谷選手の場合はロサンゼルス・エンゼルス時代から、地域に関係なく多くの人の注目を浴びている印象があります。今季「50本塁打50盗塁」を達成した際は、ヒューストンで「記念Tシャツ」を着ている学生も見かけました。

 ――1995年に野茂英雄さんがドジャース入りした当時の空気感はどうでしたか

 「ノモマニア」という言葉ができたぐらいブームになったのを覚えています。普段野球を見ない人から、わざわざ電話がかかってきました。「日本人も野球がうまいんだ」という言葉も多かったです。米国に与えたインパクトは強かった。

 ――先ほど、日本の存在感が米国で薄れていると言われました

 「失われた30年」で、かなり変わった気がします。経済的な低迷が、世界や米国内のプレゼンスに響いている印象です。

 私がいたミシガン州は自動車産業の本場で、当時はまだ日本への対抗心が強かった。デトロイト空港にある長期滞在用の駐車場に日本車を駐車していたら壊されたという話をよく耳にしました。

 日本を代表する「モノ」のイメージも変わっています。私が大学院生だった80年代や、90年代は日本の電化製品がすごく人気で、メーカー名を言えば日本のブランドという認識も高かった。現在は韓国製や中国製も米国内で浸透し、若い世代では日本のメーカーを知らない人もいます。

 そういう意味で、日本が世界や米国で誇れる代表的な存在が「アニメと大谷選手」と言えます。

 ――日本の存在感が薄れていると感じる点は

 私の感覚では米国人が持つ「アジア」のイメージが変わった気がします。昔はアジアと言えば日本、中国、そして韓国でしたが、今はトップは中国。その後は韓国という印象を受けます。携帯電話や自動車など韓国メーカーの認知度が上がっていることや、韓国からの移民が増えたことが関係しているのかもしれません。

 ――野球の人気はどうでしょうか

 米国で野球が今も「ナショナルパスタイム(国民的娯楽)」と思っている人はあまりいない気がします。男子でいえばアメリカンフットボールがあって、バスケットボールもある。私が住んでいたミシガン州ではその次にアイスホッケーでした。野球は米国の「4大スポーツ」の一つですが、そのうちサッカーに抜かれる可能性も感じます。

 だから大リーグ機構(MLB)の中でも大谷選手への期待が高いです。個人的な見解ですが、以前は日本選手が活躍しても、日本選手だからと前面にはあまり出さない空気感が、球界にあったように見えました。

 私が日本人という点を差し引いても最近、大リーグ関係者と話していると、大谷選手について「球界を代表する選手として活躍して欲しい」「Savior(救世主)だ」という意見も聞くほどです。

 ――野球は日米関係を円滑にするのに役立っていますか

 野球は日米の間に親しみやすさをもたらしています。米国にとって日本はただの同盟国ではなく、共通の文化的な価値観をもっている国。親しみが増すので、間接的な意味で外交に貢献している気がします。

 仮に中国が日本と同じように野球の伝統国ならば、米中関係でもう少し共感できるような雰囲気を作り出すことができるのかもしれません。(ニューヨーク=遠田寛生)

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