AIとロボットで、iPS細胞を目の細胞にする最適な培養条件を見つけた=神戸市の理化学研究所

 科学の一分野だった人工知能(AI)研究だが、AI自身が科学者のように研究を加速させる期待が出てきた。社会を発展させ、人類の知を広げてきた「科学する心」はどこに向かうのか。

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 「毎朝、ノーベル賞級の発見がAIによって100件、200件、生まれるかもしれない」

 2月に都内で開かれた理化学研究所のシンポジウムで、清田純チームリーダーはAIによる科学へのインパクトをそう語った。

 清田さんらが取り組むのが「2050年までにノーベル賞級の発見を自律的にできるAIをつくる」というプロジェクト「ノーベル・チューリング・チャレンジ」だ。20年に日米英の研究者らでスタートしたが、「あまりにマンガ的だと思われて、当初は誰も研究資金を出してくれなかった」と振り返る。

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「2050年までにノーベル賞級の発見を自律的にできるAIをつくる」という国際研究プロジェクト「ノーベルチューリングチャレンジ」に取り組む研究者ら=2024年2月13日、東京都中央区、竹野内崇宏撮影

 「だがチャットGPTの登場で突然、『そんなこともありえそうだ』と実現度が上がった」

 清田さんは、AIが実験器具とつながり、自ら細胞を観察して次々に実験するシステムを開発。「今こうしている間もAIが自分で考えて実験している。人間の科学者の仕事は、月曜日の朝に足りない試薬を補充するだけ」と話して参加者を笑わせた。

 2月にあったこのプロジェクトの国際ワークショップでは、各国の研究者が「人間に理解できない現象もAIは理解できる」「これまでの科学の発見は人間の頭に依存しすぎていた」「AIやロボットは休みなく研究を続けられ、この頭脳をコピーすることも容易だ」と議論をかわした。

 研究を主導する北野宏明・沖縄科学技術大学院大教授(ソニーグループCTO=最高技術責任者)は、「人間は全ての論文を読み、全てのデータを知った上で実験ができず、検証できる仮説も限定的。ある意味で行き当たりばったりだった。AIなら人間よりはるかに多くの知識を踏まえて、はるかに広範な仮説を生成でき、一気に検証できる。科学の変革につながる」と期待をこめる。

AIが仮説を立て、実験もし、分析もする将来

 「ただ、そんなAIも、たった十数年前まで『ダメな研究分野だ』と言われていた」

 コンピューターに人間の知能…

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