A-stories「タブーなき買収」#3
かつて「敵対的買収」と呼ばれ、敬遠された企業買収が増えています。買い取り価格の高騰やネガティブキャンペーン、横やり争奪戦、全株売り抜け。食うか食われるか、タブーなき買収の時代の幕が開こうとしています。
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風雲急を告げたのは1本の電話だった。
「第一生命ホールディングス(HD)から買収提案が届きました」
昨年12月初め、企業の福利厚生を代行するベネフィット・ワン(ベネワン、東京)社長の白石徳生(57)は、役員から連絡を受けて耳を疑った。
ベネワンに対しては、すでに医療情報サイトを運営するエムスリーが、株式公開買い付け(TOB)を実施中だった。ベネワンの取締役会も賛同を表明していた。
ファンドが対抗してくることはあるかもしれない、とは思っていた。「びっくりしたというのが率直な気持ち」。白石は振り返る。
第一生命HDにしてみると、ベネワンはひそかな「片思い」の相手だった。少子高齢化の加速で保険事業だけに頼っていても成長に限界がある。新規事業を強化しようとしていた矢先だった。
約1万6千社の従業員向けに福利厚生などを提供するベネワンは1996年、パソナグループの社内ベンチャー第1号として発足している。
「ちょうどベネワンの株式の過半を握るパソナにあいさつに行こうとアポをとったところだった」
新規事業などを担当する第一生命HD執行役員の甲斐章文(49)によると、エムスリーがTOBを始めた昨年11月は、そんなタイミングだったという。
「横やり」批判のリスク、かわせるか
他社に先を越されたことで、大きな懸念が生まれた。法人を含め多くの取引先を抱える保険大手が、相手の同意もないまま買収に踏み切れるのか。「横やり」「後出し」と批判される恐れがあった。
救いになったのが、その直前…