ピアニストで作曲家の中村天平さん=2024年9月25日、横浜市港北区、永井靖二撮影

 ウクライナの首都キーウでのコンサートは、ミサイル攻撃のため、取りやめになった。

 ロシアの侵攻から7カ月余を経た2022年10月10日、作曲家でピアニストの中村天平(44)は公演の中止を受け、大学寮の地下にあるシェルターへ急いだ。

 3日前にウクライナ入りし、ロシア軍による住民の大量殺害が起きたブチャなどで演奏後、キーウに到着した矢先のことだった。

 その日のうちに出国することになり、「それなら」とシェルター内で持参した電子ピアノによる即興ライブを開いた。ウクライナ国歌を弾くと、拍手が沸いた。

 ウクライナとの交流は2010年にさかのぼる。欧州を放浪中に友人ができたのが縁で、毎年のように演奏会を開いてきた。「戦争になったら、『危険だから行くな』となるのか。仲間を見過ごせない」

ウクライナの首都キーウで公演の日にロシアからミサイル攻撃があり、避難したシェルターでウクライナ国歌を披露する中村天平さん(手前)=2022年10月10日、キーウ市内、中村さん提供

 ウクライナでのライブのことを、父の俊男(76)と母の洋子(76)は事後に知らされた。父は「戦地には行くなと言ったのに。あんなに入れ込むのは、自分も家をなくした経験があるからやろか」と思う。

30年前、突然の大地震で肉親や住まいを失いながら、懸命に生きた人々がいた。当時、朝日新聞記者の取材に応じた家族を再び訪ね、30年の歳月をたどった。

  • 【当時の記事】冬の光に無残な街 中村さん一家の1995年

 神戸市東灘区にあった天平の実家は1995年1月の阪神・淡路大震災で全壊。1階が潰れたが、アップライトピアノのおかげですき間ができ、脇で寝ていた両親は助かった。2階で無事だった天平は家族とともに知人宅に一時身を寄せ、周囲の優しさが身に染みた。

 倒壊したのは、両親が25年…

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