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日枝王国の崩壊

連載・日枝王国の崩壊④権力の源泉

 2017年5月の連休明け、東京都内にある日枝久の自宅前に記者が詰めかけていた。当時79歳のフジテレビ会長。社用車のトヨタ・センチュリーから降りたった日枝は上機嫌だった。

 「なんにもないよ」と記者たちを見渡す。社長だった亀山千広の退任が確実視されていた。ドラマや映画で大ヒットを飛ばした名プロデューサーも、視聴率不振のフジを立て直すには至っていない。日枝の後の社長2人は6年ずつ在任、亀山はまだ4年だったが、日枝はもう見限っていた。

 「筋道は立てたと思うけど、数字を見りゃわかるでしょ? あれで結果が出たといわれたら、僕がアホって言われちゃう」。では誰が社長になるのか。「フジにとっていい人は誰か。才能や経験のない人はダメだよ、ガハハ」。そして付け加えた。「突然銀行から来て出来ないでしょ? テレビってのはメーカーとは違うからね」。かつて日枝が放逐した鹿内宏明は銀行からやってきた経営者だった。豪快に笑いつつ、人事情報はけむに巻き、塀で囲まれた自邸に消えた。

  • 連載①始まったフジテレビ日枝の時代 鹿内家支配を終わらせたクーデター
  • 連載②影の軍師・村上ファンド「ゲームに参加しないか」興奮したライブドア
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 翌日、東京・台場のフジ本社。日枝は幹部たちに亀山の社長退任だけでなく、自身も会長から退くと伝えた。そのインパクトは、社長人事以上だった。「ちゃんと後輩に道を譲るんだな、と思った」と当時の幹部は明かす。

 しかし、日枝は引退したわけではなかった。

 17年、代表取締役会長から…

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