高校野球に新基準の低反発バットが導入されてから1年。バットの影響は、どのように試合で表れているのか。データや現場の声から実情が見えた。(データ協力・データスタジアム)

 2015年から24年までの全国選手権9大会(中止だった2020年をのぞく)のデータで比べた。1試合あたりの平均得点は、最も多い17年が5・5点だったのに対し、24年は3・2点。打率は5分下がった。長打率(3割)を含めて、いずれも過去9大会で最低だった。

 朝日新聞は今春の選抜大会に出場する32校の監督にアンケートを行い、うち30人から回答を得た。低反発バットにより、戦術面や指導面で変化があったかという問いに対し、「はい」が19人、「いいえ」が8人、「その他」が3人だった。

 多くが「フライ性の打球は飛ばない」とし、対策としては「低いライナー性の打球」を唱える指導者が目立った。

 史上4校目の選抜連覇を狙う健大高崎(群馬)の青柳博文監督は「スローボールを引きつけてセンターに打ち返すことを打撃練習の一番最初に採り入れている」という。

 プロ野球でのプレー経験がある智弁和歌山の中谷仁監督は「ベースとなる筋力は必要と感じたため、トレーニングに割く時間が増えた」と答えた。

 データでみると、全打球に占めるゴロの割合が54・7%(前年比3・5ポイント増)で、昨夏が最も高かった。新基準のバットの直径は、従来より3ミリ細い最大64ミリ未満。低い打球を打つ意識に加え、打ち損じも増えたことでゴロが増えたとみられる。

 ただ、打球がゴロのときに単打になる確率は25・7%(同3・8ポイント減)で、過去最低に。ゴロ性の打球が増えた一方で、それが安打につながっていない現状もある。

 山梨学院の吉田洸二監督は「飛距離が減少したのはもちろん、内野手の間をゴロで抜けていくような打球が減った。内野ゴロも緩くなった」。横浜の村田浩明監督も「守備側は守りやすい打球が多くなった」という。

 作戦面や走塁にも変化が見られた。昨夏は1試合あたりの犠打企図数が2・5で最多となった。また、二塁走者が外野へのゴロ安打で本塁に生還した割合は48・9%(同15・7ポイント減)、一塁走者が右前安打で三塁にまで進塁した割合は38・5%(同11・5ポイント減)。安打1本で二つ先の塁まで進むことが難しくなっている。

 青森山田の兜森崇朗監督は「得点圏に走者を置いた状況で、極端な前進守備をとるチームが増えたように感じる」。滋賀学園の山口達也監督は「外野陣に『後ろを越されたら仕方ない』という考え方を植えつけ、ライトゴロの練習もさせた」。

 一方、投手のデータを見ると、昨夏は1打席あたりの与四球の割合(6・2%)は最低、1イニングあたりの投球数(15・0球)も最少となった。長打のリスクが下がったことで、ストライクゾーンに投げ込みやすくなった可能性がある。市和歌山の半田真一監督は「チェンジアップなどの緩い球を使える投手、内角への制球力が良い投手は、速い直球がなくても通用するように感じた」。

 「投高打低」の傾向が顕著な中、大谷翔平(ドジャース)を高校時代に指導した花巻東(岩手)の佐々木洋監督は変化を前向きにとらえる。

 「以前のバットは泳いでもホームランになったが、今は中途半端なスイングでは飛ばないし、力だけではごまかせない。打者の技術向上にはプラスしかない」。飛ばないからといって「ゴロを打て」「四球を狙え」ではなく、このバットでも長打を打てるよう、個の能力を高めていきたいという。=終わり

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