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パルカコチャ湖の前で氷河を見上げるサウル・ルシアノさん=2025年8月7日、ペルー中西部ワラス、河崎優子撮影

【連載】フロントランナーの試練 欧州気候危機 第4回

 気候変動対策のフロントランナーとして世界をリードしてきた欧州。記録的な熱波に加え、洪水や砂漠化、山火事などが相次ぎ、住民の暮らしを根底から揺るがしています。危機的な試練に直面する欧州の今を伝えます。

 南米ペルー・アンデス山脈の氷河が溶け出したのは、約1万キロ離れたドイツの企業にも責任があるのか――。

 今年5月、ドイツの裁判所はこの問いに一つの判断を示した。気候が年々激変するなか、司法が地球温暖化の責任を明確にしようとする動きが広がりつつある。

 ペルー中西部、アンデス山脈のふもとに広がる町ワラス。登山旅行客に人気のこの町に住む先住民族「ケチュア族」のサウル・ルシアノさん(45)は10年前、ドイツの大手電力会社RWEを提訴した。

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サウル・ルシアノさん(左)と妻のリディアさん=2025年8月7日、ペルー中西部ワラス、河崎優子撮影

 生まれも育ちもワラスのルシアノさんは、20年以上にわたり山岳ガイドとして働いてきた。その目に映ったのは、町を取り囲んでいた氷河が、温暖化によって年々消えゆく現実だ。

 ワラスから山道を車で2時間ほど登った標高4566メートルに、パルカコチャ湖がある。氷河をいだく6千メートル級の二つの山の間に氷が溶けてできた氷河湖で、長さ1・5キロ、幅0・5キロ、深さは約70メートルにも及ぶ。

 8月、記者が酸素の薄い中でエメラルドグリーンの湖を眺めていると、山の上部から「ゴーッ」とこもった音が聞こえた。何の音だろうか。

 ルシアノさんに尋ねると、氷…

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