京都大学教授の大村華子さん

 3年ぶりの総選挙。石破茂首相は新内閣の信任を問うと解散の理由を説明する。政策面で衆目の一致する対立点が見えづらく「争点なき選挙」との指摘もあるが、有権者の投票行動を研究してきた京都大学の大村華子教授(政治行動論)は「政策によって投票先を決めることはとても難しい」と説明する。2000年代にはよく耳にした政策本位の政治をめざす「マニフェスト(政権公約)選挙」という言葉もすっかり聞かなくなった。では私たちは何を手がかりに投票しているのだろうか。

有権者の多くはお手上げ

 ――私たちはどのようにして投票先を決めているのでしょうか

 有権者の投票行動に関する研究には、1940年代から続く長い伝統があります。米国の研究者アンガス・キャンベルらによる研究は、米国の有権者が特定の政党に長期的に形成された愛着を「政党帰属意識」として、「知覚のスクリーン」が働いていると指摘しました。このスクリーンは、私たちの社会に対する理解を助けると考えられています。

 彼らの研究は、これだけではなく選挙戦の際にどのような情報が有権者に影響を与えるのか考え、政党、候補者、政策の3種類の情報がとりわけ重要と示しました。後の研究で、政策によって投票先を決めることが最も難しいということもわかってきました。

 教科書的には有権者が政策を比較して投票先を決めることが理想とされるでしょう。しかし、そもそも政策は実現するかわからない未来の話であり、判断材料としてどこまで扱ってよいのか難しいものです。選挙では複数の政党が多岐にわたる分野で、一斉に未来の政策を語るわけで、それを総括した上で判断することは、私たちの思考にとても負担のかかることです。有権者の多くはお手上げでしょう。

「バズーカ」が業績評価のきっかけに?

 ――有権者の多くは政党のイデオロギーや候補者の人柄で選んでいるのでしょうか

 そういった要素もあるでしょうが、実は近年の日本の有権者は、政権の業績を評価して投票先を選ぶ傾向が強まっています。過去から施策の良しあしを判断する方が、未来から判断するよりも難易度が下がります。

 衆院選を前に、いま私たちが考えるべきことは何か。有権者として何を問われているのか。インタビューや対談を通して考えます。

 たとえば「自分の暮らしは楽…

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