つむぐ 被爆者・稲木牧子さん(81)、記者・魚住あかり(27)
被爆80年アンケートに添えられた手紙の、きちょうめんな文字が目にとまった。「このような企画を設けていただきありがとうございます」。最近になってようやく、子どもや友人に被爆体験を打ち明けたのだという。
私(27)は今年3月まで2年間、広島総局に勤務し、被爆者に話を聞いてきた。一方で、「話したくない」と取材を拒む人や、家族の反対を受けて直前で記事が掲載できなかった人もいた。
アンケートに言葉を残そうと思ってくれた気持ちがありがたかった。直接会いたいと、東京都へ向かった。
長崎市出身の稲木牧子さん(81)。18歳で上京後は長年、百貨店のファッションデザイナーとして働いてきた。
習慣にしているのは、A4のリングノートに日々の出来事を書き留めることだ。毎日の献立や、気になった美術館の展示などと共に、ある言葉を新聞記事から書き写していた。
「被爆者の体験談、証言は『核兵器の使用はどれほど受け入れられないものか』を思い起こさせてくれる」
ノルウェー・ノーベル委員会…