4年前の9月。

 蒸し暑い日の夕方だった。黒いスーツに身を包んだ男性(32)は、滋賀県の集合住宅のとある一室の前に立った。

 人をだますという罪悪感、警察に捕まるかもという不安と恐怖が頭を占めた。

 でも、ギャンブルで作った借金がある。

 「やるしかない」

 インターホンを押し、警察を名乗った。

 スマートフォンを通話状態にし、片耳につけたイヤホンから聞こえてくる「指示役」の言葉をそのまま復唱する。

 10分ほどのやりとりを経て、高齢の女性からキャッシュカード2枚を受け取った。

 特殊詐欺で被害者から現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」。入り口は、X(旧ツイッター)経由で応募した「闇バイト」だった。

特殊詐欺事件に「受け子」で関与したとして実刑判決を受け、昨夏に出所した男性。社会復帰に向け、民間団体「ワンネス財団」が運営する施設で生活している=2024年11月14日午前11時37分、奈良県、藤田大道撮影

 北陸地方で生まれ育ち、地元の大学を卒業した後は食品関係の企業に就職した。土日勤務で残業も多く、友人と遊ぶ機会も減っていった。

 仕事のストレスと寂しさを紛…

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