「あのね、ママ」、「ママ、聞いてる?」
何度も呼ばれたのに、あの頃、いつも外の世界ばかりに憧れていた。一人娘と自分だけの日々は、愛(いと)おしくて、時々、息苦しかった。
でも、今になって、思う。
もっと、話を聞いてあげればよかった。一緒に遊んであげればよかった。もっと、もっと。
娘が一心に自分だけを見つめてくれる時間が、こんなにも短いと知っていたなら。
静岡県富士宮市の主婦、皆藤京子さん(62)は、今も思い出す苦い記憶がある。
娘が、小学2年生くらいだったか。突然「お手紙ごっこ」なるものが始まった。
1階の出窓に、家をかたちどった手作りのポストが置かれていた。差し出し口があり、後ろには、取り出し口がついていた。
「ママ、お手紙ちょうだいね」
手紙を入れると、すぐに娘が取りに行き、「ママ、ポスト見て」。返事がすぐ返ってくる。
《今日は、学校で何があったの?》《夕食は何が食べたい?》《単身赴任のパパはいつ帰ってくる?》
何げないやりとりをかわした。
ある日、また手紙が届いた。
《ママ、このごろいつも、どこにお出かけしてるの。たまにはおうちでゆっくりしなさい》
思わず、胸が詰まった…