穏やかな里山の景観が広がる兵庫県猪名川町。大阪市や神戸市に直線距離で30キロほどと近く、阪神間のベッドタウンとして開発された住宅団地が、田園風景に点在する。
空き家になった隣家の屋根から、太陽熱温水器の機械が落ちそうになっている――。
住民から町役場にそんな相談があったのは、2022年5月ごろのことだ。
現地は、猪名川町の荘苑(そうえん)地区。1970年代に開発された約350戸の小規模団地で、近くに乗馬クラブもあって自然が豊か。一方、コンビニやスーパーなどは遠い。環境にひかれて新たに移り住んでくる人もいるものの、入居開始から50年近くがすぎて住民も高齢化が進み、空き家も目につく地区だ。
相談を受け、町職員が現地を確認した。
2階建ての屋根上に置かれた温水器は、かろうじてワイヤ1本で留まっているようだ。瓦も劣化し、一部が落ちている。隣の家と軒を接し、温水器が落ちれば確実に隣家を直撃する。
隣の家には子どももおり、最悪、事故の危険性さえある――。町はそう判断した。
所有者、判明せず
所有者を調べた。近隣に聞くと、高齢の女性が1人で住んでいたが亡くなったという。登記簿上は、約150平方メートルの土地も、木造瓦ぶき2階建ての住宅も、その夫とみられる男性の所有から、子どもが相続したような記載になっていた。しかし、関東地方に住む子どもは、相続を放棄したという。
従来の空き家対策では、危険…