「相互の不信感が募り分断が広がっている状況を『ウイルスの感染』に例えれば、日本や台湾は、まだパンデミックの初期段階だ。これからの取り組み次第で、ウイルスの蔓延(まんえん)をふせぐことができる」。台湾の初代デジタル発展部の部長(大臣)を務めたオードリー・タン(44)は5月12日、自民党と立憲民主党の会合で相次いで講演し、訴えた。
AIなどのデジタル技術を駆使して民意を可視化し、政治に反映することで、分断を克服し、より良い社会にすることができる――。これが一貫した信念だ。かつて、台湾で取り組んできた実績に裏打ちされている。
2016年、35歳という史上最年少で入閣。世界的にも先進的と言える仕組みがうまれ、政策実現につながっていた。その一つが「vTaiwan」だ。
「vTaiwan」とは、インターネット上で市民、専門家、行政などあらゆる立場の人たちがオープンに議論を深めて、合意形成をめざすプラットフォームだ。
15年、世界的なライドシェア事業者ウーバーの台湾参入をめぐる公開討論には、4千人以上の市民が参加。ウーバーのドライバーやタクシー事業者、利用者、政府関係者らが対面で議論し、結果を再びオンラインで討論した。結果、「禁止」「容認」の二項対立ではなく、ドライバーを登録制にして保険加入を義務化するなど、既存の配車サービスの一環として営業できる「折衷案」を導き出し、新たな法改正につながったとされている。
数百人、数千人が議論に参加して合意をつくる。これまでは不可能だったことも、デジタル技術によって、論点がどこにあるのか、何が懸念されているのかを、可視化することができる。この手法は後に「ブロードリスニング」と呼ばれるようになる。
一方で、台湾では今や、「vTaiwan」があまり政策にいかされていないという。それはなぜなのか。
「vTaiwan」下火の背景とは? 現在の「vTaiwan」運用責任者が要因を語ります。記事の最後ではオードリー・タン氏への単独インタビュー動画も視聴できます。
現在、「vTaiwan」の…