アイヌ民族の楽器ムックリの名手たちが奏でる倍音がホールに響き渡る。やがてムックリに似た世界中の口琴も加わり、「ビヨーンビヨーン」と不思議な音色が空間を満たした。
北海道白老町にある国立のアイヌ文化発信拠点「民族共生象徴空間」(ウポポイ)で、3月23日にあったイベント「今日は一日ムックリざんまい!」。客席にいた石井ポンペは目を細めて「すごいねえ」と拍手を送った。
時は絶えず流れる、世は限りなく進展してゆくーー。終戦直前に生まれ、アイヌ民族の権利保障を求め続けてきた石井ポンペさん。その半生を通して、アイヌ民族の戦後史を振り返ります。
ポンペにとって、ムックリは大切な相棒だ。竹製の弁についたひもを引っ張って出る音を口の中で共鳴させることで、動物の声や風の音まで自在に表現できる。民族運動に踏み出した頃、自らがアイヌ民族だと象徴するにふさわしい楽器だと思った。
「自分の主張ばかり叫んでもだめなんです。ムックリを通してなら、日本人(和人)もアイヌも関係なくつながれる」
学校でいじめられた経験から、民族運動のさなかでも他者を傷つける激しい対立は避けてきた。
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1997年にアイヌ文化振興法が制定され、アイヌ民族の音楽や舞踊などが披露される機会が増えた。ポンペもムックリを片手に、各地のイベントを飛び回った。
ポンペが札幌市の公園管理に…