「こんにちは、はげまろです。兄貴、すごいことになってるね」
「何が?」
「トランプさんとゼレンスキーさんのケンカ」
「いいじゃねえか」
「ひげジイ」という人形を片手に腹話術で一人二役でしゃべるのは「はげマロ」こと、工藤章さん(78)だ。
ひげジイは、はげマロの5歳上の兄貴という設定。工藤さんがひげジイを動かしながら声色を替えて、はげマロと掛け合い、トランプ大統領をいじる漫談を繰り広げる。
「人形がしゃべる時、唇を動かしちゃいけない。これが難しく、肺活量を使うんです」
工藤さんが座長として率いる「はげマロ」一座は、ひげジイとその妻、小百合、座長の孫のかず君、ブラジル日系3世のカルロス、アマガエルのケロちゃんと計5体の腹話術人形がメンバーだ。
劇の台本は工藤さんが書く。
テーマは「熟年離婚」「認知症」「ブラジルのワールドカップ敗戦」「オレオレ詐欺」など、時事ネタから日常まで幅広い。
工藤さんは慶応大を卒業後、1969年に三菱商事に入った。
「日本の工業化には欧米の技術の輸入が必要との状況下で、理工学部で学んだ自分が役に立てないかと考えた」と振り返る。
主にプラント輸出を担当し、ベネズエラやチリ、ブラジルに赴任。チリでは鉄鉱石の処理工場、ベネズエラではセメント工場などの建設に携わった。
その後、現地法人の社長や中南米ブロック総代表などを歴任。ブラジル日本商工会議所会頭にも就き、中南米を飛び回った。
「ニューヨークにも日帰り出張して、とにかく忙しかった」
そんな会社人生も08年、定年で終わりを告げた。腹話術と出会ったのはその2年後だった。
商社時代は飛行機で中南米を飛び回っていた工藤章さんが定年後、選んだのは、腹話術人形師。その理由を記事後半で語ります。
母校の高校の同窓会で、先輩…