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 「大人だけで色々議論しないでこどもの気持ちも聴いてください」

 新型コロナウイルスの国内での感染が確認され、2020年春、政府の要請で学校が一斉休校になりました。ステイホーム、マスク着用、黙食、学校行事や部活動の中止――。それ以降、子どもは日常と違う生活を強いられました。

 しかし、子ども自身のことを決めるのに、多くの子どもは気持ちや意見を聴かれることがありませんでした。冒頭に紹介したのは、コロナ禍が始まった20年4月から、国立成育医療研究センターの医師や研究者らが有志で始めた、子どもへのアンケートで聴かれた声です。

 アンケートの実施にも携わり、「子どもの声」を聴くこと、子どもの暮らしに関わることを決める過程に子どもが参画することの大切さを伝えてきた児童精神科医・山口有紗さんに聞きました。

写真・図版
児童精神科医の山口有紗さん=山口さん提供

児童精神科医 山口有紗さん

 ――コロナ禍が始まった直後から、子どもへのアンケートを始めました。

 子どもの心身の健康や権利が保障される必要があると、国立成育医療研究センターは20年4月に「コロナ×こども本部」を立ち上げました。子どもや保護者の心身の健康状態を知り、声を聴き、社会に届けるためです。7~17歳の子ども、0~17歳の子どもの保護者に、オンラインと郵送、それぞれ7回にわたりアンケートをとりました。

 ――アンケートにはどのような声が寄せられましたか。

 就寝時間の遅れや乱れ、身体を動かす時間の減少など生活の変化がわかったほか、「給食中に友だちと話せない」「感染がこわい」「運動不足」「なんでもコロナだからと行動や気持ちを制限されている気がする」など、子どもがストレスの影響を受けていることがわかってきました。

 「学校のコロナ対策に参加したい」「休校や登校、休校期間の勉強について発言する場所がない」「大人が思っている以上に、部活と学校行事はこどもにとってとても大事なものです」など、子どもの気持ちを聴いてほしいという声も数多くありました。

子どものストレス高いまま 社会のしわ寄せ子どもに

 ――子どもの心に起きていることで、気づいたことは何ですか。

 生活の変化によるストレスの影響が想像以上に長く続いていることです。同センターの調査では「疲れた感じがする、気力がない」といった抑うつ傾向が「中等度以上」になった子どもは20年から22年にかけて増えているほか、「取り残されていると感じる」といった孤独感も21年から22年にかけて改善はみられませんでした。

 大人からすれば生活の制限が少なくなり、一見日常に戻ってきたように思えても、子どものストレスは高いままである可能性に気づかされました。

 ――虐待やDVなど、コロナがなくても苦しい思いをしている子どもへの影響はより大きかったと聞きます。

 多くの研究で、不安定な経済状況、心身の疾患、発達の特徴、暴力を受けているなど、もともと何らかの困難な状況にあった子どもほど影響を受けやすいと指摘されています。

 たとえば児童相談所の一時保護所にいる子どもとコロナの時期を振り返ると、出勤や登校ができなくなった家族が自宅に集まることで関係性がさらに悪くなり、つらい思いをしたという話もよく出てきます。

 家庭だけではありません。仲がよかった友だちと遊べなくなったり、居場所だった保健室に行けなくなったり、子どもを支えていた「保護因子」といえるものが、薄らいでしまいました。

 子どもの自傷や自殺も増えました。社会が苦しくなったとき、また、閉じられて外から見えない家庭のなかで、「誰にしわ寄せがいくのか」ということがコロナ禍で顕在化したように思います。子どもの自傷や自殺は「子どもたちの問題」ではなく、本当は「私たちの問題」なのです。

アンケート通じて子どもと対話

 ――アンケートをとるうえで気をつけたことは何ですか。

 アンケートは一方的な調査で…

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