番狂わせを演じたヒロインの喜びの声を聞こうと部屋に集まった記者は、私を含めてわずか3人だった。
テニスの全豪オープン女子シングルス1回戦で、予選から勝ち上がった世界ランキング93位(当時)、ダヤナ・ヤストレムスカ(23)=ウクライナ=が前年のウィンブルドン女王を破った。
ただ、大会側が指定した部屋は記者4人が入れば、ほぼ満杯の「インタビュールーム4」。
会見の進行役もいない。進行は、互いに顔なじみの私たち記者3人に委ねられた。
【連載】インタビュールーム3 全豪テニスが映した戦争
ウクライナ侵攻の直後からロシアとベラルーシの選手に扉を開いてきたテニス界。表面的な回答になりがちなメインインタビュールームでは語られることが少ない戦争に対する葛藤、迷い、憤り。選手の本音に迫りました。
技術的な改良点などを聞いてから、話題は戦争のことになった。
実家はオデーサ。今なお、ロシアの爆撃が続く街だ。今年1月にも、祖母の暮らすマンションにロケットが直撃したという。
「一番怖いのは、こうした日常に慣れてしまうこと。そして、多くの人々が過去のことだと忘れてしまうこと」
自分がプレーすることで、母国に何か恩返しができたら。そんな思いを口にした。
「それは責任感から?」と聞かれると、「責任感とは考えたくない。スポーツでは勝つことも負けることもある。それは自然なこと。ただ、自分に少しだけ、より良い結果を残したいとプレッシャーをかける。だって、勝ち進めば、より多くの人に自分の声が届くから」。
有言実行の快進撃が始まった。
4回戦ではベラルーシ出身の元世界ランキング1位、ビクトリア・アザレンカ(34)を破った。
ロシアの協力国であるベラルーシの選手と戦った気持ちについて聞かれると、「この質問について私が答え始めたら、あなた方は私の答えを快く思わないはず。だからこの質問はパスしたい。あなたはウクライナ人にとって、ロシアとベラルーシの選手と戦うことが何を意味するか、わかるはず。だからそうした質問の仕方は好ましくない」。
この段階になると、勝利後の…