1986年に福井市で起きた女子中学生殺害事件。有罪判決を受けて服役した前川彰司さん(60)を無罪とした再審の判決に対し、検察側が上告を断念し、前川さんの無罪が確定した。
A-stories「暗闇の先に」
殺人容疑で逮捕されて38年。再審で無罪となる判決を受けた前川彰司さんの半生をたどる連載です。
逮捕から38年後の判決を、前川さんはどう受け止めたか。
「大丈夫や」 自分に言い聞かせた
判決の言い渡しまで、十数時間。
福井市の自宅マンションの窓際で一人、350ミリリットルの缶チューハイを開けた。
7月17日夜、前川さんは張り詰めた気持ちをほぐそうと、いちごチューハイをのどに流し込み、のりしお味のポテトチップスに手を伸ばした。
明くる日に、再審の判決を控えていた。
逮捕されたのは事件の1年後。一貫して無実を訴えてきた。
検察側が伏せていた、有罪を揺るがす証拠が再審請求審で明らかになり、判決は「無罪の公算大」と報道されていた。
《ただ、一抹の不安があった。打ち消すためにお酒の力が必要だった》
ベランダの窓際で、たばこを吹かしながら思いをめぐらせた。「大丈夫や」と言い聞かせ、ベッドに入った。
判決当日の朝、いつものように午前5時過ぎに起き、近くの小学校へラジオ体操に向かった。今回の裁判につながる2度目の再審請求をした3年近く前から続ける日課だ。
帰宅後、絵馬を手にとった。再審が決まった後、神社でもらい、手元に置いていた。赤色のペンで「再審無罪」と書き込み、聖母マリアの絵の隣に掲げた。
《俺にしては珍しく強気で。絶対に勝つ、という思いで書いた》
「良い結果が…」それだけを思って
名古屋高裁金沢支部へ向かう。一審の無罪判決を不服とする検察側の控訴が認められ、30年前に懲役7年の逆転有罪判決を受けた場所だ。
支援者の運転する車に揺られ…